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トランプ次期政権の国務長官にティラーソン・エクソンCEO指名が意味するもの。急変する(?)米国の対ロ政策。「アメリカファースト」より、「ビジネス(利権)ファースト」へ(RIEF)

2016-12-14 00:39:50

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 トランプ次期米大統領が国務長官に、親ロシア派のエクソン・モービルCEO、レックス・ティラーソン氏の起用が決まったことで、米ロ関係が大きく変わる可能性が出てきた。同時に、対ロ制裁で停止状態となっている北極圏でのエクソンによる石油開発が動き出す可能性も浮上してきた。

 

  ティラーソン氏は2011年、ロシア国営石油会社ロスネフチと歴史的合意を結び、ロシア国内の広大な北極圏地域や深海、シェール層へのアクセスを確保した。その取引規模は5000億㌦(58兆円)とも言われている。しかし、ウクライナ問題をきっかけに米欧諸国が対ロ制裁を実施したことから、エクソンのロシア域内でのエネルギー開発はすべて中断している。

 

 同氏は、エリツィン大統領時代から、ロシアでネットワークを築いている。プーチン大統領とも、エリツィン時代から親密な仲だとされている。2013年にはプーチン氏の大統領令で、ロシア政府が外国人に授与する最高の賞に値する「友情賞」を受賞している。

 

 つまり、現在の米国の経済人の中では「もっともロシア寄り」と目される人物である。このため共和党の上院議員のマケイン議員、ルビオ議員らからも、対ロ政策の急変の可能性への疑念とともに、米国の外交政策がエクソンのビジネス利権によって左右される懸念が示されている。

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 ユニークなのが、トランプ氏が地球温暖化に懐疑的で、環境保護庁(EPA)長官候補に懐疑派を起用する方針なのに対して、ティラーソン氏は、地球温暖化を認めており、パリ協定を支持してきた。北極圏開発は温暖化によって北極圏の海氷が減少することで、開発が可能になるという事実を踏まえているようだ。

 

 ただ、エクソン自体は、1980年代から温暖化が、人類による化石燃料燃焼で加速していることを知りながら、温暖化懐疑論を展開してきたことが指摘され、ニューヨーク州等の司法当局の調査が継続中という事情がある。ティラーソン氏は国務長官になると逆に、利益相反の疑念を避けるために、北極圏開発は凍結のままにせざるを得ないとの見方もある。

 

 ロシアと温暖化とエネルギーという3つの要素が、ティラーソン指名に、複雑に絡み合っているわけだ。だがトランプ氏の脳裏で共通するのはビジネスとして「儲かる」かどうか、という点ではないか。トランプ氏の掲げる「アメリカ・ファースト」を、この3要素の中に置くと、「ビジネス・ファースト」で解けるのかもしれない。

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 しかし、ビジネス主導で対ロ政策が180度変わることに、違和感を感じる向きは米国内でも少なくない。トランプ氏の動きの背後で浮上したロシア「陰謀説」が、にわかに信ぴょう性を帯びている。それは、先週末、中央情報局(CIA)が、ロシアがサイバー攻撃により米大統領選に干渉したと断定した、との情報が流れた点だ。

 

 

 当初は、「笑い話」のように語られていたプーチン大統領による米大統領選挙への介入説だった。だが、トランプ陣営が急激にロシア寄りの姿勢を鮮明にしてきたことで、CIAの警告が本物かもしれないとの見方が増えている。

 

 米メディアによると、大統領選前に民主党全国委員会(DNC)やクリントン陣営のポデスタ選対本部長の電子メール数千通を盗み出し、告発サイト「ウィキリークス」に流した複数の人物がロシア政府とのつながりを持っていたことが判明したという。

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 これに対して、トランプ氏の移行チームはCIAを強く非難する声明を出した。かつて、ブッシュ前政権が対イラク開戦に際して、「フセイン政権は大量破壊兵器を保有している」とのCIAの誤った情報を受けていたことを指摘、今回の情報も、当時その情報を主張したのと「同じ人たちだ」と批判した。

 

 

 ロシアのスパイが、大統領選挙を操作し、ロシア寄りの大統領を誕生させようとの陰謀が進行しているのか、あるいはCIAがまた(?)でっち上げで世界を混乱させようとしているのか。その真偽はともかく、トランプ陣営の人選が危うさをはらんでいることに、ようやく米国の政治家やメディアも気づき始めたようだ。大統領就任まで、思わぬ波乱が起きる可能性もある。

 ティラーソン氏の前任のエクソンCEOのリー・レイモンド氏は、エクソンという石油メジャーのトップの視点をこう語ったことがある。「私は米国企業ではない。米国にとっていいかどうかを判断基準にしていない」と。あくまでもビジネスファーストなのだ。この点でトランプ氏とも一致するようだ。  (藤井良広)