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EUの非財務情報開示(NFR)指令。今事業年度から義務化。域内6000社以上が対象。FSBの気候関連情報開示報告の組み入れ国も(RIEF)

2017-01-09 23:13:46

EUキャプチャ

 

  欧州連合(EU)が、域内の大企業を対象に、環境、社会、ガバナンス(ESG)の非財務情報開示を義務付ける制度が、今年から始まる事業年度に適用される。対象企業は、従業員が500人以上の上場企業、銀行、保険会社で、6000社以上に及ぶ。

 

 2014年9月に成立した非財務情報開示(NFR)指令に基づく。企業活動に伴う従来の財務情報以外の、環境、社会、従業員に関連する事項、人権の尊重、腐敗防止、贈収賄などの非財務情報と、取締役会の多様性に関する詳細情報を、年次的に報告することを義務づけた。EUの指令を受けて、各加盟国は自国で法制化をする。ただ、現時点では5か国しか法制化を完了していない。

 

 欧州委員会によると、規制開始に合わせて法制化を完了したのは、エストニア、ルクセンブルク、ハンガリー、ギリシャ、スロバキアの各国。加盟国での国内法整備が遅れているのは、金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示作業部会(TCFD)が昨年12月に公表した気候変動関連の情報開示の報告案との整合性をとる国が多いためとみられる。

 

 FSBのTCFD報告案は、今年3月にFSBの正式報告になる予定。夏にはG20でオーソライズされる見通しだが、EU主要国は、FSBの報告による気候変動関連情報開示の考え方を、NFR指令の国内法制化の中に取り込むことで、FSBのルール化を促進する狙いもあるようだ。今年第一四半期に各国の法整備が出そろう見通しだ。

 

 同様に、EUの政策運営を担当する欧州委員会は、指令に基づく全般的な非財務情報開示の企業向けガイドラインを、第一四半期中に発行する予定だ。同ガイドラインは加盟国向けではなく、域内市場で活動する企業を念頭に置いているという。

 

 EUの指令は先駆的な国については、国内法で上乗せ規制をすることを認めている。これを受けて、複数の国では、規制の対象を拡大する法制を準備している。たとえば、スウェーデンやデンマークは、対象企業を従業員250人以上のすべての企業に拡大する。その結果、対象企業はスウェーデンだけで1600社、デンマークは、1100社に増える。

 

  指令で求められる非財務情報開示ルールについては、すでに英国やフランスなどのように、国内法制などで開示が進んでいる国も多い。また、非財務情報開示の手法も、統合報告書のIIRF、グローバルレポーティングイニシアティブ(GRI)の G4、 人権課題についての国連ガイディング・プリンシプル、さらに CDSBなどの自主的な開示手法が活用されている。

 

 指令では、これらの既存の開示手法や自主的な枠組みを継続的に活用・発展させることを認めている。ただ、各対象企業は、環境、社会び従業員関連事項、人権、腐敗防止、贈収賄等に関係した自社の情報を最小限度開示しなければならない。

 

 同時に、こうした非財務情報開示の手順、企業活動に伴うESGなどの主要なリスク、 非財務情報の主要業績指標(KPIs)の開示も求められる。ここでのESG情報は当該企業による直接の影響分だけでなく、バリューチェーン、取引先、製品などの影響分も対象となる。

 

 非財務情報のKPIsについては、指令合意の際に、もっとも議論が分かれた。結局、指令では詳細なKPIsを特定せず、各国の個別法制に委ねた。この点で、FSBのTCFD報告案では、企業全般の情報開示方針に加えて、産業セクターごとの情報開示に分けて、マテリアルな情報開示をとる方向性を示している。これらの視点が、NFR指令の国内法制化に影響が及ぶ可能性がある。

 

 もうひとつ、指令の重要な点は、日本のコーポレートガバナンスコードなどが採用するような「Comply or explain(ルールに従うか、さもない場合は説明せよ)」のスタンスではないことだ。財務情報の義務的開示と同様、非財務情報の基本情報も義務的開示であり、適時適切に、総合的に開示されなければならない。

 

 各企業は、ESGに関するデューデリジェンス・プロセスの開示も求められる。こうした意思決定過程の開示は、従業員による犯罪防止や、企業による腐敗活動の責任を評価する機能が期待される。

 

 非財務情報開示では英仏などが先行して自主的開示と、法的開示を進めてきている。しかし、EU全体でみると、大企業の過半数は、開示内容に統一性がない。Bloombergのデータでは、企業の情報開示のうち、環境関連の4つの指標(エネルギー使用量、温室効果ガス排出量、水使用、廃棄物量)の開示はいずれも、過半数を上回っていないという。

 

 EUの非財務情報開示が市場全体のルールになることで、EU市場で活動する日本企業だけでなく、欧州系年金などの機関投資家の投資対象となる日本企業についても、その非財務情報化時の適切さが、問われる可能性が高まりそうだ。