国際エネルギー機関（IEA）と再エネ機関（IRENA）が共同報告書。低炭素社会移行のコストは2050年まで年1兆8000億㌦、グローバル・ベネフィットは年10兆㌦（RIEF）
2017-03-21 00:34:48
国際エネルギー機関（IEA）と国際再生可能エネルギー機関（IRENA）は低炭素経済社会への移行に必要な費用は2050年までに年間1兆8000億㌦（約297兆円）となるが、それらの投資は雇用創出などで毎年10兆㌦（約1150兆円）の利益をグローバルに生み出す、とする初の共同報告書を公表した。
報告書は、「エネルギー転換の展望～低炭素エネルギーへの移行に必要な投資」と題している。低炭素経済社会への移行については、パリ協定の目標に沿って迅速に進めるべきだ、とスピードアップを要請している。目下、トランプ米政権が気候変動対策に後ろ向きの姿勢を示しており、報告書は「トランプ越え」を求めた形だ。
報告書のポイントは、地球の気温上昇を産業革命前からの2°上昇に抑えるというパリ協定の合意を達成するために、低炭素経済社会への移行の経済的メリットを推計した点にある。
2015年時点のエネルギー分野からのCO2排出量は、グローバルベースで年32Gt。報告書は、2050年までにはこれが約3分の1の年9.5Gtに低下するとみている。こうした削減分の90%は石炭や石油などの化石燃料エネルギーを再生可能エネルギーに切り替え、エネルギー効率化の普及によって達成される。
再エネ発電は現在、世界全体の発電量の24%を、第一次エネルギー供給の16%を、それぞれ占めている。低炭素経済社会に移行するには、2050年までに、再エネの比率を発電量の80%に、第一次エネルギー供給の65%にそれぞれ引き上げる必要があると指摘している。
こうした2050年までのエネルギー転換のコストは、地球全体で総額29兆㌦になる。膨大だが、グローバルGDPに占める比率は約0.4%にとどまる。さらに再エネ投資等のコスト分はGDPの引き上げ要因となり、GDPは0.8%引き上げられるという。
分野別では、建物、産業、それに輸送の部門で、石燃料エネルギーに代替する再エネ資源として、より多くのバイオエネルギーのほか、太陽熱、太陽光発電などが必要になるとしている。また自動車分野では、電気自動車が支配的となり、液体バイオ燃料の生産は現行より10倍増になる。
新規建設物では、高効率のオール電化ビルが規範となる。熱媒体や半導体等による熱移動のヒートポンプ技術の普及の加速や、20億件のビルの改修・新築の必要性なども指摘している。
一方、再エネを軸とする低炭素経済社会への移行によって、化石燃料等の分野での雇用の減少を踏まえても、全体としては新規雇用が増大するという。特に、エネルギー効率化分野での新規雇用の増加が顕著になるとしている。加えて、環境の改善、特に大気汚染の減少によって、人々の健康福祉の改善効果も高まる。
ただ、移行期のエネルギー転換が迅速・適切に推進されないと、石油・ガスなどの化石エネルギー企業は全体で1兆3000億㌦（約150兆円）規模の損失を被るとの警告もしている。
IRENAの代表理事のAdnan Z. Amin氏は「エネルギー転換による経済への影響は決して大きなものではない。すでに今現在、世界中で再生可能エネルギー発電所が化石燃料発電所よりも低価格で電力を供給している。2050年までを見通すと、低炭素化により持続可能な経済成長を促し、再エネ分野でより多くの雇用を生み出す」と強調している。
同氏は「われわれは、現在、グローバルエネルギーシステムを転換させる非常にいいポジションにいる。これが成功するかどうかは、迅速な行動をとれるかどうかだ。遅れると低炭素化に伴うコストを高めることにつながる」と指摘、パリ協定の目標達成に向けた温暖化対策の早期実施を各国に求めた。
報告書は、こうしたエネルギー転換を迅速かつ適格に推進するために、機能するエネルギー市場のフレームワークを造り、市場を再デザインすることを求めている。その政策手段として、カーボンへの価格付け政策の導入を提言している。さらにエネルギーアクセスのない人々への配慮の重要性についても言及している。
Research Institute for Environmental Finance