HOME5. 政策関連 |温暖化による海面上昇に直面する太平洋の仏領ポリネシア。浮体式の人工島(浮島)計画が本格稼働へ。ポリネシア政府が米NPOの推進団体と覚書締結。早ければ2019年にも「島」建設に着工(RIEF) |

温暖化による海面上昇に直面する太平洋の仏領ポリネシア。浮体式の人工島(浮島)計画が本格稼働へ。ポリネシア政府が米NPOの推進団体と覚書締結。早ければ2019年にも「島」建設に着工(RIEF)

2017-03-22 00:09:53

 

  地球温暖化の影響で海面上昇のリスクにさらされている太平洋諸島。タヒチを抱える仏領ポリネシアが、浮体方式の人工島(浮島)の開発に乗り出した。島全体の水没対策にするとともに、開発した浮島に一定の自治権を認める「特別経済海洋区」とし、世界中から企業や観光客を誘致することも目指すという。

 

 仏領ポリネシア政府は、このほど米カリフォルニア州を拠点とする非営利機関シーステディング・インスティチュート(The Seasteading Institute:TSI)と覚書を結び、同国内での浮島設置の調査と、政府側は法的な整備を進めることで合意した。

 

 浮体方式の人工島構想を手掛けるTSI社は、元グーグルのソフトウェア・エンジニアだったPatri Friedman氏(TSI会長)らが「海に浮かぶ都市」建設を目指して推進してきた。Friedman氏らの当初の想定は、政府の領土を離れて自由な生活を楽しむ裕福な自由主義者らを「浮島」の買い手として想定していた。

 

 しかし、温暖化による海面上昇リスクに見舞われる世界中の島嶼諸国には、水没によって失われる島の土地の代わりを求める膨大な“需要”がある。昨年9月にはポリネシアのエドアルド・フリッチ大統領に招かれ、同国のタヒチ島、トゥパイ島など周辺で候補地調査を行った。

 

floatongキャプチャ

 

 ポリネシアの島々には、周囲をサンゴ礁に囲まれて外洋の波が遮られた穏やかな海面が広がっている。このため、比較的、手頃なコストで浮島を築ける見込みだ。TSIはポリネシア政府との覚書に基づき、プロジェクトに取り組む新会社ブルー・フロンティアーズを設立した。

 

 新会社は、自己資金で初期調査と浮島の建設を行う。プロジェクトの費用は1000万〜5000万㌦(約11億〜57億円)の見込み。プロジェクトにはシリコンバレーの投資家であるPeter Thiel氏がこれまでに100万㌦以上を投じているほか、個人投資家の資金を集めているという。

 

 同社はプロジェクトの可否を判断する調査を2017年中に終える。その結果を踏まえ、ポリネシア政府は事業を推進する法案を制定する。同法案が2018年末までに可決されれば、2019年に第一号の浮島建設を着工するという。

 

 TSIによると、第一号の浮島は数十人が住める小規模のものとする。それが成功すると、次は数百、数千人の規模の島民が生活できる大型版の建設を目指す。ポリネシアをはじめ海面上昇に直面している太平洋の島々の住民にとって、将来的に、たとえ島が水没しても、島民は領海内の浮島に避難できることになる。

 

 TSIとポリネシア政府は、気候変動対策としての浮島利用にとどまらず、浮島を「特別経済海洋区」として位置づけ、一定の自治権を与える計画だ。ただ、観光振興を超えて、租税回避地(タックス・ヘイブン)の新設につながると国際的な税務当局との調整が必要になってくる。

 

 TSIが設置を検討する浮島のモジュラー・プラットフォームは、オランダのエンジニアリング会社、Blue21の設計による。Blue21はロッテルダムに建設したフローティング・パビリオンで知られる。

 

 同パビリオンは、浮力を持つ基礎部の上に、透明のETFEフィルムで覆われた半球状の多目的スペースが3つ連なる形で、2019年まで展示される予定だ。このパビリオンは常に海面に浮いているので、海面上昇が起きても対応可能という。また太陽光や海水を室温調節に利用する設備、トイレの水を浄化する装置も備えている。

 

 ポリネシア政府の住宅大臣のJean-Christophe Bouissou氏は「夢は、その夢を実現しようと望む者に、ふさわしい」と、自信にあふれたコメントを出した。

 

 国連の気候変動政府間パネル(IPCC)によると、太平洋に点在する小島嶼部の多くは、今世紀末までに26~82cmの海面上昇によって、島内の土地を水没させるリスクに直面しているという。

https://www.seasteading.org/floating-city-project/