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昨年の温暖化ガス排出量3年連続で横ばい。国際エネルギー機関(IEA)によるCO2排出量調査。経済成長と排出量のデカップリング進む(RIEF)

2017-03-26 23:04:19

IEA12キャプチャ

 

 国際エネルギー機関(IEA)によると、2016年の世界でのエネルギー燃焼による二酸化炭素(CO2)排出量は321億㌧で、3年連続の横ばいとなった。一方、世界経済は前年比3.1%成長した。石炭等の化石燃料から天然ガスや再生可能エネルギーへの転換の進展や、エネルギー効率化の広がりの影響を映している。

 

 IEAの調査からは、米国の排出量削減も顕著で、温暖化に懐疑的なトランプ米政権に代わって排出量が急増するとの見方はとっていない。また、中国やインドなどの新興諸国でも、化石燃料からの転換政策の効果が出始めているという。

 

 IEAはこうした実態を受けて、「経済活動とCO2排出量のデカップリング(分離)が続いている」と分析している。その理由として、①再エネ発電の増大②石炭から天然ガスへの転換③エネルギー効率化の改善④グローバル経済の構造変化の進展、の4点を挙げている。http://rief-jp.org/ct4/59440

 

 2016年のCO2排出量低減が大きかったのは、排出量が世界第二位の米国と第一位の中国の2か国。欧州は横ばいで、他のアジアなどは経済成長の影響を受けて増加した。つまり、米中のCO2排出量の低減が途上国の増加分を相殺した形だ。

 

 米国の場合、排出量は前年比3%減、1億6000万㌧が減った。経済成長は1.6%増だったから、デカップリングは明確だ。米国市場では太陽光や風力などの再エネ発電が経済的にも競争力を増している。加えてシェールガス・石油の供給でエネルギー価格の上昇が抑えられたことも影響した。米国の昨年の排出量は1992年以来、最も低かった。経済はこの間、80%増えている。

 

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 CO2排出量世界最大の中国の昨年の排出量は、前年比1%減だった。経済成長は6.7%だったが、産業部門、建物部門を中心に、エネルギー使用が石炭から天然ガスへの転換が進んだ。加えて再エネ発電も政府の政策支援で増加している。

 

 中国の電力需要増(5.4%増)の3分の2は、水力や風力などの再エネ電力と原子力によって供給された(注:IEAは原子力をクリーンエネルギーと位置付けている)。昨年だけで5基の新設原発が稼働している。

 

 IEA事務局長の Fatih Birol氏は「3年連続のCO2排出量横ばいは、経済成長が続く中で実現している。排出量のピークが近い、というにはまだ早いが。こうした傾向の背景には、市場のダイナミクスと技術進歩という要素もある。特にシェールガス・石油の供給が続く米国の事情は、そうした要素が大きい」と分析している。

 

 再エネの普及はグローバルに効果をあげている。世界中の電力需要の増加分の半分は、再エネ発電によって供給されている。再エネの中では、水力がほぼ半分を占めるという。原発の発電量も1993年以来、もっとも高い発電容量となっている。

 

 石炭需要は世界的に減退した。特に米国では11%減と大きく低下した。米国では発電に占める天然ガス火力が初めて、石炭火力を上回った。トランプ政権は石炭支援を政策の柱に据えているが、シェールガスの開発増大を受けたエネルギー市場の変革の流れを食い止めることは難しいとの見方が多い。

 

 また中国とインドは、ともに大気汚染という課題を抱えている。またエネルギー資源の多様化という視点もあり、今後、石炭からガスへの転換が進むとみられる。Birol氏は「世界のエネルギーミックスに占めるガスの比率は、現在25%だが、中国は6%、インドは5%でしかない。両国でガス転換の可能性が大いにあるということ」と指摘している。

 

 市場のエネルギー選択、技術進展によるコスト低下、気候変動や大気汚染への関心の増大などが、CO2排出量と経済成長のデカップリングを推進する主要要因になっている。

 

 IEAは3年連続の排出量横ばいを評価しながらも、パリ協定が目指す世界の気温上昇を産業革命前からの2℃未満に抑制する目標には不十分、とクギを刺す。さらなる技術進歩の促進、市場の活用、透明性があり、継続的な政策の展開等をグローバルに展開する必要がある、と警告している。

https://www.iea.org/newsroom/news/2017/march/iea-finds-co2-emissions-flat-for-third-straight-year-even-as-global-economy-grew.html