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PM2.5の健康影響による早死、世界で年間345万人。物理的な越境汚染だけでなく、国際貿易の分業体制による影響増大。国際共同研究チームが指摘(RIEF)

2017-03-31 13:47:04

Nature2キャプチャ

 

  国境を超えたグローバルな国際分業化の加速で、生産地と消費地を超えた大気汚染の影響による住民の早死が年間345万人にのぼるとの推計が、国際共同研究でわかった。この研究によると、他国への輸出のために生産地で生じる大気汚染での早死者は、生産地から周辺国に大気汚染物質が物理的に流れ出ることによる早死者の割合より増えているという。国際分業を踏まえた「越境汚染」の対応が求められる。

 

 調査は中国・清華大と北京大、米カリフォルニア大アーバイン校、カナダ・ブリティッシュコロンビア大などでチームを構成。このほど研究結果が英科学誌「Nature」に掲載された。調査チームは、2007年の1年間に、世界228カ国・地域で、製造業により発生したPM2.5の濃度と流入経路、PM2.5が発生の危険を高めるとされている脳卒中、肺がん、慢性閉塞性肺疾患(COPD)で早死にした人の数などのデータを利用してモデルを作成し、PM2.5の流入と早期死亡率の相関性を分析した。

 

   その結果、海外の消費地への輸出のために生産地で生じる大気汚染のほか、生産地から周辺国に汚染物質が流れるなどの物理的な越境汚染の影響などによる早死数は、年間345万人(2007年)に上ることが推計された。このうち、12%の41万1000人は、従来型の他の地域から飛来したPM2.5の影響で死亡したとみられる。また25%の76万2400人は、他国への輸出品の生産活動によるPM2.5の発生の影響で、早死した生産地の住民数という。

 

 たとえば中国の場合、中国の工場等からのPM2.5の飛散によって周辺国等に6万4800人の早死にをもたらし、そのうち、日本と韓国がほぼ半分の3万900人だったる。一方、欧米などの消費地向けの中国国内での生産活動に伴うPM2.5の影響で、中国国内の早死者は10万8600人に上ったという。

 

 PM2.5による早死が全体的に多いのは、東欧諸国と中国が図抜けており、ついでロシア、西欧、インドの順。このうち、国際分業による影響を示す、生産国での早死は、東欧、ロシアが多い。次いで中国、カナダとなっている。汚染物質が物理的に周辺国に飛散する「越境汚染」による死者は、東欧、ロシア、カナダ、中国以外のアジア、中国以外の東アジアの順。

 

natureキャプチャ

  これまで国境を超えた大気汚染問題は、欧州域内での西欧諸国から北欧、東欧への硫黄酸化物汚染や、米国とカナダの間の越境汚染など、大気汚染物質が物理的に飛散する影響が問題視されていた。しかし、今回の研究結果から、そうした物理的越境汚染に加えて、経済のグローバル化によって、生産地と消費地が物理的に分かれる国際分業が進展したことで、生産地周辺に汚染が倍加して蓄積することが証明されたといえる。

 

 特に中国や東欧諸国には、多くの企業が安価な労働力を求めて工場などの製造拠点を建設し、地域経済の必要量以上の生産体制から膨大なPM2.5が発生している。中国の場合、その影響が中国国内および、物理的に隣接する韓国と日本にも、従来以上に越境して飛散量も増す形で、影響が深刻化しつつあるといえる。

 

http://www.nature.com/nature/journal/v543/n7647/pdf/nature21712.pdf