HOME |パリ協定合意の「1.5℃」努力目標の達成のためには、2040年までに排出削減と吸収源とで「ネット・ゼロ」が必要。オーストリアの国際研究機関がシナリオ分析(RIEF) |

パリ協定合意の「1.5℃」努力目標の達成のためには、2040年までに排出削減と吸収源とで「ネット・ゼロ」が必要。オーストリアの国際研究機関がシナリオ分析(RIEF)

2017-04-17 00:45:57

Walshキャプチャ

 

 地球温暖化の促進を阻止するパリ協定の目標を達成するためには、CO2排出量の削減と森林等による吸収とを含めて2040年までに「ネット・ゼロ」を実現しなければならない、とする分析が公表された。オーストリアの国際応用システム分析研究所(IIASA)が、最新のモデル分析で推計した。協定で各国が約束した削減目標でも「2℃目標」の達成は不可能とされているが、実際はもっと総合的な対策が必要になる。

 

 パリ協定では、世界的な気温上昇を「産業革命以前に比べて2℃より十分低く保つととも に、1.5℃に抑える努力を追求する」ことで国際合意した。IIASAは気候変動激化を阻止するために、もっとも望ましい「1.5℃目標」を今世紀末までに達成するためのエネルギー源対策と吸収源の組み合わせをモデル分析でシミュレーションした。

 

 その結果、今世紀末までに「1.5℃目標」を達成するには、エネルギー源を、CO2を排出しない再生可能エネルギーに切り替えるだけでは不十分で、森林や土壌、海洋などの吸収源と組み合わせ、2040年よりも前に、排出と吸収を合わせて「ネット・ゼロ」を実現する必要があるとの結論を得た。分析は科学ジャーナルの「Nature  Communications」に掲載された。

 

 分析によると、今世紀末までの「1.5℃目標」達成のためには、グローバルなエネルギー消費に占める化石燃料の比率を、現在の95%から25%に縮小する。同時に、土地や森林等によるCO2吸収源効果を高める。こうすると、今世紀末までに累積CO2排出量を、ビジネス・アズ・ユージュアル(BAU)に比べて42%削減できるという。

 

 IIASAの分析チームを率いた世界銀行コンサルタントのBrian Walsh氏は「分析は、化石燃料からのCO2等の排出量だけでなく、農業、土地使用、食料生産、バイオ燃料、さらに森林や海洋等によるCO2の吸収源の効果も合わせて評価した」と指摘している。

 

 モデルでは複数のシナリオ分析を実施した。そのうち「高度再エネケース」は、太陽光や風力、バイオエネルギー等が年間5%増で成長するシナリオで、グローバルな温室効果ガスのネット排出量は2022年にピークをつける。しかし、エネルギー源を再エネに切り替えるだけで、実質的な吸収源対策を伴わないと、世界の気温上昇は目標を上回る「2.5℃」になる。

 

 これだと、パリ協定の目標を上回ってしまう。Walsh氏は「高再エネシナリオは野心的だが、達成が不可能ではない」と分析している。国際エネルギー機関(IEA)によると、2013~14年の世界の再エネによる発電量は、すでに年間2.6%増のペースで推移している。ただ、今後も再エネ比率を2~3%台で継続できるとした場合でも、同時に化石燃料発電等を現状のペースで続けると、今世紀末の気温上昇は3.5℃に上昇するという。気候変動の激化は避けられない。

 

 分析チームは、エネルギーの供給サイドの変化だけではなく、企業、個人両方を含めた消費サイドの影響もモデル分析に加えた。エネルギー消費が高い場合と低い場合の差異も分析している。モデル分析には FeliX modelを活用した。同モデルは、環境だけでなく、社会、経済等を統合して解析するシステム・ダイナミクスモデルである。従来の予測モデルに比べて、詳細な分析はややラフだが、地球上のカーボンサイクルをシステミックに捉えることができるという。

 

 エネルギーの消費サイドの分析としては、エネルギー効率化(省エネ)、森林や海洋、土壌、農業等を含めた需要サイドの対策の効果、さらに人類の行動の変化なども加味した。

 

 研究チーム:Walsh B, Ciais P, Janssens IA, Penuelas J, Riahi K, Rydzak F, vanVuuren D, Obersteiner M (2017). Pathways for balancing Co2 emissions and sinks. Nature Communications doi: 10.1038/NCOMMS14856

 

http://www.iiasa.ac.at/

https://www.nature.com/articles/ncomms14856