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トランプ米大統領、北極海・大西洋の大陸棚の海洋開発許可の大統領令に署名。オバマ前政権の保護策を全面撤回。環境・住民団体らは大統領令無効の集団訴訟提起(RIEF)

2017-05-05 01:34:52

drillingキャプチャ

 

 トランプ米大統領が、北極海域を含む米国の大陸棚でのエネルギー開発を許可する大統領令に署名したことに対して、環境団体や先住民グループが、同大統領令は違法だとして、差し止めを求める集団提訴をした。

 

 新たに署名した大統領令は、「アメリカ・ファーストのオフショア・エネルギー戦略の実行」と題するもの。米国の「アウター・コンチネンタル・シェルフ:OCSLA(外縁大陸棚法)」が定める海岸線から3マイル以遠の連邦政府管轄の海域部を含め、エネルギー開発のための掘削を許可する内容だ。

 

 大統領令は米国の資源を米国民のために活用することで、エネルギー輸入からの自立を高める、としている。ただ、開発許可対象には、オバマ前政権時代に、米国のアラスカ州沖の北極圏海域の98%に相当するOCSLA域での開発を停止させた決定を覆す狙いがある。

 

 このため、環境NGOの「 League of Conservation Voters(LCV)」が主導する環境・住民団体10グループは、アラスカ州の連邦裁判所に、オバマ前政権の決定を覆そうとする大統領令の停止を求める訴訟を起こした。訴訟は環境団体のEarthjusticeとNatural Resources Defense Council の弁護士が担当する。

 

 焦点になるのは、オバマ前大統領が退任直前の2016年12月に、北極海の ボーフォート海とチュクチ海のほぼすべてについて、海底の石油・ガス掘削開発を認めないとして打ち出した政策を、トランプ政権が全面的に否定できるのかという点だ。対象には大西洋での石油・ガス開発のための連邦管轄海域の民間開発業者へのリース規制も含まれる。

 

 集団提訴の代表を務めるLCVの代表、 Gene Karpinski氏は「オバマ前大統領が打ち出した北極圏と大西洋の永久的保護は、長年の科学的研究と住民らの要請、組織化の結果、勝ち得られたものだ。石油・ガスの海底掘削と関連事業は、沿岸部への石油流出の脅威を高め、沿岸経済と住民の生活基盤を悪化させることになる。また気候変動にも悪い影響を及ぼす」と提訴理由を説明している。

 

 これに対して、トランプ大統領は、自らの大統領令の署名に際して、「米国の海域を(開発から)閉ざすことは、国民から多くの雇用を奪うことになる」と指摘。石油・ガス業界はこの大統領令を高く評価し、「米国のエネルギーにとって新しい日の到来を告げる」と称賛している。

 

 ただ、法律家の間では、OCSLAですでに決定した政策を、次の大統領が無効にできるのか、という点で意見が分かれているという。OCSLAのSection12(a)では、大統領に連邦海域の民間へのリース処分を取り消す権限を認める一方で、いったん出された取り消しを撤回できるとは明確には記述していない。

 

 過去に大統領が、先の決定の取り消しを改めたケースは複数あるが、一つの決定を完全に無効にしたケースはないという。また、過去の同規定に基づく、大統領令による開発の取り消し措置は、連邦管轄の大陸棚部分の一部を対象とする場合が大半だったが、オバマ前大統領のように、対象海域の大半にそうした規制の網をかけた事例もないという。

 

 集団提訴グループでもあるDefenders of Wildlifeのシニア弁護士の Jason Rylander氏は「トランプ大統領令は、北極海と大西洋の両方の環境に重大な結果を及ぼすとんでもない決定だ。さらに海洋に依存した生活をしているコミュニティにも甚大な影響を及ぼす。OCSLAに違反するだけでなく、米国憲法の財産権条項にも反する」と指摘している。

 

https://www.whitehouse.gov/the-press-office/2017/04/28/presidential-executive-order-implementing-america-first-offshore-energy

https://www.eenews.net/assets/2017/05/03/document_gw_07.pdf

https://www.eenews.net/assets/2017/04/28/document_gw_04.pdf