HOME |独シーメンスと米GE、「脱原発」のガスや再エネ事業の好調さが業績堅調に。原発にこだわった東芝と明暗分かれる。日本の政策・経営力の失敗浮き彫り(各紙) |

独シーメンスと米GE、「脱原発」のガスや再エネ事業の好調さが業績堅調に。原発にこだわった東芝と明暗分かれる。日本の政策・経営力の失敗浮き彫り(各紙)

2017-05-05 14:28:40

GE2キャプチャ

 

  各紙の報道によると、重電で「世界2強」とされる独シーメンスと米ゼネラル・エレクトリック(GE)の業績が堅調だ。2社のけん引役は東芝と同じく電力事業だが、原発中心の東芝と異なり、天然ガスで発電するガスタービンや風力発電向け機器などが好調だったという。政府の原発政策に引きずられて、経営も原発中心から脱却できなかった東芝の“失敗”とは対照的だ。

 

 日本経済新聞が報じた。シーメンスもGEも、ともに2011年3月の日本の東京電力の福島第一原発事故を機に原発事業から距離をとる経営にシフトした。同じ電力事業向けでも、火力や再生エネルギーなどの事業に移してきた。

 

 一方の東芝は、原発事故を起こした市場を抱えるにもかかわらず、引き続き原発事業を経営の柱に据え、米原発子会社のウェスティングハウス(WH)を推進する経営を続けてきた。

 

 こうした経営姿勢の相違は、経営の成果として明瞭に表れた。シーメンスが4日発表した2017年1~3月期の純利益は前年同期比0.2%増の14億8300万ユーロ(約1800億円)。風力・再生エネ部門は同13%増と5四半期連続で前年同期を上回る増収増益だ。

 

GEキャプチャ

 

 シーメンスは2011年に原子力発電事業からの撤退を決定した。東電福島事故に加えて、ドイツ政府が東電事故を受けて2022年までに国内の全原発の停止方針を打ち出したことがきっかけだった。その一方で新たなビジネス領域として、各地での再エネ事業に機器販売を進め、今年4月にはスペインの風力発電設備大手ガメサの買収を完了するなど、再エネ分野を主力市場の一つとして高めている。風力発電事業の売上高はすでに110億ユーロに上るという。

 

 一方のGEも、17年1~3月期は最終黒字に転換。15年に完了した仏アルストムの電力部門買収で高効率蒸気タービン事業を獲得したことで、GEの従来からのガスタービン事業とを組み合わせた発電設備事業の競争力が高まり、順調に収益につながっているという。再生エネの売上高も22%増と弾みがついてきた。

 

 GEのジェフ・イメルト最高経営責任者(CEO)は「電力が強い四半期だった」と、脱原発の電力ビジネス・モデルへの転換の成功の手応えを語っているという。

 

 シーメンスとGEの共通点は、福島の事故を機に、それまで電力事業の柱であった原発事業から距離を置き、事業の新たな柱を天然ガスと再生エネ分野に切り替えたことだ。両社にとって、電力事業は100年以上の歴史を持つ中核事業である。しかし、新旧両方の発電手法の費用対効果を、経済面と安全面の両方から冷静に評価し転換したからこそ、電力ビジネスで勝ち残ることができたわけだ。

 

 一方の東芝は福島の事故後も、原発にこだわり続けた。事故直後の11年4月、当時の佐々木則夫社長は、「原発売上高の1兆円の旗は下ろさない」と宣言。目標の達成は当初の2015年度よりは遅れるが、その後、原発受注が拡大するとの経営判断を示していたという。

 

 佐々木氏は、ウエスチングハウス買収の立役者の一人だった。佐々木氏の後任社長の田中久雄氏も「原発1兆円」にこだわった。東芝経営者の原発固執の背景には、日本政府が福島事故の修復の見通しがつかない状況にもかかわらず、原発をエネルギー政策の中心に据え、再エネには本腰を入れていない「歪んだ政策」を取り続けたことが影響したとみられる。

 

 「こだわる経営力」と「切り替える経営力」。その差は明瞭だ。日経の記事は「福島事故前、業績面で開きはあったものの、東芝は火力や再生エネ分野などで『世界2強』に挑戦できる立場にあった」と指摘している。世界のエネルギー市場を踏まえると、日本の原発政策の失敗は明らかだが、国内ではその「失敗」を指摘する声があまりに少ない。

 

 政策の失敗が、経営の失敗を生み、他の電力会社も原発を抱え込んだまま、「切り替えられない経営」を今も、続けている。日本の産業競争力は確実に低下し続けている。