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トランプ米政権、国連「緑の気候基金」の資金で、世界中に「クリーン石炭火力発電所」の建設促進を目指す、とホワイトハウス高官が言明(RIEF)

2017-07-15 17:44:14

GCF1キャプチャ

 

   パリ協定からの離脱を宣言した米トランプ政権が、また難題を持ち出した。途上国の温暖化対策支援のために設立した国連の「Green Climate Fund:GCF(緑の気候基金)」の資金で、温暖化の影響を受ける途上国に石炭火力発電所を建設してエネルギーを確保することを提案しているという。

 

 Bloombergがホワイトハウス高官の話として報じた。温暖化の抑制とは逆行するような提案だが、米国はGCFへの最大の出資国であり、他の出資国は対応に苦慮しそうだ。

 

 米国はGCFへの出資予定額30億㌦のうち、すでに10億㌦をオバマ前政権時代に払い込んでいる。トランプ大統領は、残りの出資を拒否する考えを選挙期間中から明言していた。しかし、すでに出資した分に基づく理事会のポスト等は当分維持する方針で、その立場からGCFの資金を石炭火力やガス火力の建設にも充当する考えを打ち出したとみられる。

 

 先にドイツ・ハンブルクで開いたG20首脳会議で、米国はパリ協定からの離脱を明言し、他の19カ国と対立した。その一方で、コミュニケでは、米国の意向を受けて「米国は、よりクリーンでより効率的な化石燃料の使用と、再生可能エネルギーや他のクリーンエネルギー展開を、他国と緊密に協力する」との文言を入れた。http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000271291.pdf

 

 ホワイトハウス高官は、このコミュニケでの「よりクリーンで効率的な化石燃料の使用」という文言を踏まえて、GCFに対して出資国としての要請を行う考えだという。米国はパリ協定からの離脱を明言したが、国連の気候変動条約への加盟は維持するとしており、そうした立場からGCFのファイナンスを使って「クリーンな石炭火力」等の普及を目指す考えだ。

 

  ただ、GCFの理事会は米国以外に23カ国の理事によって構成されており、それぞれが拒否権を持つ。またこれまで30数件の途上国プロジェクトへの資金供給を決定しているが、基本は全会一致での決定の方式をとっており、米国の主張が受け入れられるかは微妙だ。一方で、GCFは化石燃料を使用するプロジェクトへの資金供給を禁じるという明確な規定は設けていないのも事実のようだ。

 

 米国が目指す「クリーン石炭火力」は、日本などがアジアで推進している超々臨界圧火力発電などのほかに、CCS(二酸化炭素回収貯留技術)を併設(あるいは将来の併設)する石炭火力も含む、としている。

 

 ホワイトハウス高官は、石炭火力だけでなく、天然ガス火力発電などのインフラ建設にも、GCF資金の活用の道を拓くべき、としている。米国は国内のシェールガス開発の拡大で、天然ガスも純輸出国になっている。

 

 しかし、環境NGOらは明確に「反対」の姿勢を表明している。米Friends of Earthの経済政策プログラム副局長のKaren Orenstein氏は、「GCFは“偽石炭ファンド”や“偽天然ガスファンド”ではない。気候へ変動危機の時代に持続可能な発展を維持するためのファンドだ」と指摘、トランプ政権の提案が的外れであると、強調している。

 

 シエラクラブのグローバル政策担当者のJohn Coequyt氏は「トランプ政権のアイデアは、すでに温暖化の影響がもっとも顕著になっている途上国への援助を意味するようだが、その意味は、『消防署の予算を使って、すでに燃えている炎の中にガソリンを注入する』ようなものだ」と皮肉っている。

 

 実際にも、GCF理事会は上述のように合意に基づく決定をベースとしているので、出資額が最大の米国の理事でも1票の決定権しかない。また対象となるプロジェクトはGCFに承認された機関によるレビューを前提とする仕組みであることから、プロジェクトの優先度が石炭火力に置かれるには、よほど米国が出資額を上積みしない限り、難しいだろう。

 

 米国の今度のGCFへの提案は、残りの出資(20億㌦)を拒否するための「方便」なのかもしれない。ただ、トランプ氏自身、豊富な米国の化石燃料エネルギーを大量に海外輸出することで、石炭鉱山を含む国内の化石燃料産業の雇用確保と、地域社会の維持につなげたいと考えているとみられ、案外、真剣である可能性もある。

 

http://www.greenclimate.fund/home