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温暖化対策に逆行する日本の石炭火力発電の新増設。将来の設備利用率は50%割れのビジネスリスクも。「自然エネルギー財団」が試算・警告(RIEF)

2017-07-22 01:09:24

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 公益財団法人自然エネルギー財団は、地球温暖化対策の進展で、グローバルに石炭関連産業の見直し・撤退が進む中、日本が石炭火力発電の新増設に力を入れている問題で、「導入される石炭火力は設備利用率が50%を切るビジネスリスクを抱えている」と分析した報告書を公表した。

 

 報告書は「日本における石炭火力新増設のビジネスリスク―設備利用率低下による事業性への影響―」という表題。パリ協定発効を受けて、世界的に脱炭素経済への転換が進んでいるが、日本では経済産業省が42基もの石炭火力の新増設計画を認めるなど、国際的な流れと逆行するエネルギー政策を展開しており、政策の整合性と、経済合理性への疑問が出ている。

 

 今回の自然エネルギー財団の分析は、経産省などが重視する「安価なエネルギー」としての石炭火力の新増設が、実は「経済合理性を持たない」ことを示す形となっている。

 

 まず、電力需給の今後の見通しを推計、新増設計画がこのまま見直されずに進められた場合、石炭火力の設備利用率は、現状の80%から大きく低下し、2026年度には56%程度まで下がる可能性がある、と分析した。さらに、省エネが一段と進んで、電力需要がさらに5%程度、減少すると、石炭火力の稼働率は50%を切る可能性もある、と指摘している。

 

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 石炭火力の設備利用率の低下が見込まれる最大の原因は、 日本の電力需要の減少だ。東日本大震災後の電気料金の上昇やエネルギー効率化の進展などによって、わが国の電力需要は2010 年度の9311 億kWh から2015 年度には8415 億kWh へと、5 年で約10%減少している。

 

 供給サイドでも、2012 年に導入した再生可能エネルギー固定価格買取制度(FIT)により、太陽光発電を中心に自 然エネルギー発電が着実に増えている。発受電量に占める自然エネルギーの割合は、2010 年度の8.9%から2016 年度の15.0%へと6年間で6 ポイント増加している。

 

 原子力発電は、複数の原発で再稼働されたものの、2016 年度の発電電力量に占める原子力発電の比率は2%に満たない。 火力発電の設備利用率は、原子力発電の供給力低下を補うため、2012 年度にはいったん62%まで上昇した。その後、エネルギー効率化の進展と自然エネルギーの増加に伴い、2013 年度以降は下降に転 じ、2016 年度には53%まで下がっている。

 

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  報告書は、各電力会社の2016 年度供給実績データをベースに、火力設備稼働時間を分析した結果、電力系統でつながる9 つの電力会社の全てで、石炭火力発電、石炭副生ガス発電、ガス複合火力発電のいずれの設備利用率も、高い水準で維持することが困難であるとの結論を得た。

 

  国や電力広域的運営推進機関の予測でも、年間電力需要、最大電力とも、今後、大きく増える見込みは立てられていない。エネルギー効率化のほか、人口減少の影響もあって、むしろ、実際の電力需要は国の予測を下回る可能 性が濃厚だ。

 

  電力広域機関が今年 3 月に公表した「供給計画のとりまとめ」によれば、2026 年度まで供給力は一貫して電力需要を上回り、供給予備率は適正水準の8% を超えるという。同供給計画では、石炭火力の設備利用率は 2015 年度 80%から 2026 年度 69%への低下が想定されている。

 

 「供給計画」の見通しは、再稼働の決まっていない原子力発電の発電量を ゼロにするなどの保守的な前提をとっている。これに対して、報告書が分析のベースにしたのは次の4条件。

 

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 ① 公表されている石炭火力新増設計画がすべて運転開始される ② 電力需要は、2016 年度と同じ水準が続く ③ 原子力発電は一定の再稼働が進むが、政府の「長期エネルギー需給見通し」で見込む 2030 年度の電源構成 20~22%の半分程度の 10%にとどまるケースを想定 ④ 太陽光発電は「現状成長ケース」の8192 万kWの導入を想定――である。

 

  こうした前提での試算の結果、石炭火力の設備利用率は供給計画が想定する「69%」から大きく低下して、56%程度まで下がる可能性がある。さらに、 原発の再稼働が政府の想定通りには進まず、電力供給量の5%にとどまる場合、石炭火 力の設備利用率は62%。逆に、エネルギー効率化が進んで電力需要がさらに5%程度減ると、石炭火力の設備利用率は49%程度と、50%を切る可能性もある、という。

 

 現行の 石炭火力の事業計画では、多くが70%の設備利用率、40 年稼働を想定している。しかし、今回の試算を踏まえると、いずれの事業計画も実現可能性が乏しく、計画立案時に見込む利益を上げることはまず困 難という。各石炭事業者は、報告書の試算を上回る独自の事業計画を示さない限り、ガバナンスリスクを抱え込むことにもなる。

 

 パリ協定については、トランプ米政権が協定からの離脱を宣言している。だが、フランスが2040年までにガソリン・ディーゼル車の販売終了を打ち出したのをはじめとして、欧州諸国や、中国などの新興国・途上国でも、確実な温暖化対策の実施を目指す動きが広がっている。

 

 東日本大震災以降、石炭火力の新増設計画は増加の一途を辿ってきた。だが、2017 年に入って初めて 4 基中止された。残りはまだ42 基も計画中の発電所が「生きている」。報告書は、「石炭火力発電計画を持つ事業者をはじめ、石炭ビジネスに関わる全ての事業者金 融機関には、日本の状況や世界的な脱炭素社会への動向を見極め、的確な投融資判断をすること が求められる」と警告を鳴らしている。

 

http://www.renewable-ei.org/images/pdf/20170720/REI_Report_20170720_CoalPowerPlantRisk.pdf