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OECD事務次長、玉木林太郎氏。カーボンプライシング制度の導入を奨励。ただ、「導入政策への信頼確保が重要」と、安易な妥協政策への懸念を表明(RIEF)

2017-07-26 00:56:17

tamakiキャプチャ

 

   経済協力開発機構(OECD)の玉木林太郎事務次長は25日、横浜で開かれた国際会議で、気候変動対策でのカーボンプライシングの重要性を強調する一方で、「カーボン税であれ、排出権取引であれ、価格付けをする政府、あるいは地方公共団体が、長期にわたって信頼されるような政策でなければならない」と指摘、目先の政治的妥協でプライシング政策を決める可能性に、危惧を示した。

 

 玉木氏は、気候変動対策を推進していくうえで、カーボンプライシング政策を高く評価した。その一方で、「1年、2年は『プライシング政策』が続くが、3年後にはどういうプライシングになるかわからない、といった政策フレームの中では、ビジネスは長期的展望に立った投資戦略の転換、あるいはビジネスモデルの転換に踏み出せない」と指摘、気候変動政策への信頼性を得ることの重要性を強調した。

 

 さらに、価格付け政策と同時に、他の政策分野との整合性をとる必要性についても強調した。「せっかく排出量に高い値段をつけ、ガソリン代もあがるなどで、人々の行動が変わろうとする時に、それを相殺するような、あるいは妨害するような形で化石燃料に補助金等支給の政策が行われていてはならない」と指摘した。

 

 同氏は、「気候変動対策と整合性をとる他の政策領域」として、「おそらく日本の行政機能のすべてにわたる。多分、防衛省も関係するかもしれない」と語った。

 

 カーボンの適正価格については、「値段がつくことによって、人々の行動が変わる、企業の決定・判断が変わるには、ある程度以上の価格付けが行われていなければならない」と指摘。「一番、穏やかな推計でも、CO2排出量1㌧当たり30㌦くらい、通常は70~100㌦くらいが一般的な見解だ」と述べた。

 

 中国が年内に全国規模の排出権取引制度の導入を計画している。この中国分を含めて、世界の温室効果ガス排出量のほぼ4分の1が何らかのカーボンプラシング制度の対象になるとの見方も示した。しかし、現行のプライシング制度の大半は、1㌧当たり10㌦以下で、「人々の行動を変えるほど大きなインパクトは望めていない」と断定した。課題として、プライシングの範囲を拡大すると同時に、プライシングの水準をあげいくことの2点を強調した。

 

 日本でも同様に、地球温暖化対策税が導入されている。しかし玉木氏は同税についても、税の水準は各国比較で一番下の辺りに位置し、「日本の企業のビヘイビアを変えていないのはご存知の通り」と政策効果が不十分であるとの認識を示した。

 

 同氏はカーボンプライシング政策について、温室効果ガスの排出に値段をつけることとともに、「負のカーボンプライシング」である、現行の化石燃料補助金をなくすこと、の両方を基本政策として位置付けている。

 

 また、「排出量に対して値段をつけて、企業が行動する際に指標となる価格シグナルが飛び交うマーケットができる。それによって企業はどっちの方向を向いて投資をし、どっちの方向をみてビジネスを展開したらいいのかの答えがでてくる」と述べ、あくまでも企業の行動原理を変えることに力点を置く必要性を強調した。

 

 日本では、カーボンプライシング制度の導入をめぐって政府内部で、環境省と経産省の対立が続いている。この点について同氏は、「実は日本ではこの対立の構図は過去にすでに起こった。昭和40年代に公害健康被害を受けた人々の救済のため、『ばい煙』がもたらす負担を誰に取ってもらうか、という議論が起こり、当時の環境庁と通産省の間でも似たような議論が起きた」ことを例に出した。

 

 公害健康被害補償制度は、企業に移行酸化物・ばい煙の排出量に応じて一定の賦課金を課して、その資金を一義的に公害患者の救済、二義的にはなるべく費用負担のかからないばい煙防止設備に企業が投資することを誘導する政策の狙いが機能した、との評価がある。

http://www.oecd.org/contact/

http://www.env.go.jp/policy/tax/about.html