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風力で熱を蓄積後に発電する「風力熱発電」。エネルギー総合工学研究所(IAE)が年度内にも実証試験に乗り出す。蓄熱の経済コスト低さが魅力(各紙)

2017-08-11 08:33:57

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 エネルギー総合工学研究所(IAE)は、風力を利用して熱を蓄積し、後で電気に変換する「風力熱発電」の実証試験に今年度中にも乗り出す。再エネ電力を蓄電池に貯める方式に比べ、コストが20分の1以下と安く、既存の技術を活用して発電できるため、結果的に割安で実用的な発電が可能。IAEは新興国への輸出も検討しているという。

 

 IAEが実証試験を目指す風力熱発電は、風車内部に大型の磁石を用いた発熱器を搭載、風車の回転エネルギーを利用する仕組み。高温600°にも達する熱を「溶融塩」という媒体を循環させ、熱を地下タンクに蓄える。発電が必要な時に、熱を取り出して超高圧蒸気を発生させ、蒸気タービン発電をする。

 

 従来、蓄熱方式は、電池への蓄電に比べて、発電効率が悪いとみなされてきた。特に、熱から電力に変換する際に損失が大きく、揚水や蓄電池と比べて効率が大きく劣る。再エネで発電した電力をいったん熱に変えると、再び電力に戻す際に半分以下に目減りし、非合理的とみなされてきた。

 

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 その一方で、コスト面では「蓄熱コストは電池の20分の1で、設備コストなどトータルで考えれば、圧倒的に安い」(IAEの岡崎徹研究員)。エネルギーを貯めるには設備が必要であり、その設備には寿命がある。そのため充放電ごとに一定のコストがかかるが、その点で蓄熱方式が圧倒的に安価なのだ。

 

 蓄熱からの発電は蓄電池に比べて約2分の1の効率。これに対して、充放電コストは20分の1(場合によると100分の1)なので、結果的に蓄熱のほうが圧倒的に経済性に優れていることになる。IAEなどによると、実務的にも、数時間以上の蓄エネルギーでは蓄熱の方が経済的である、という。

 

IAEの岡崎徹研究員
IAEの岡崎徹研究員

 

 蓄熱のコストが安いのは、使用する蒸気タービンなどの技術がすでに完成している点だ。そのため、設置に場所を問わないほか、運営も容易で、新興国や途上国でも、風力発電を設置できるところでは、必ず適用できる技術、になるという。

 

 すでにドイツのシーメンスがこの伝統的な蓄熱利用の風力熱発電に注目し、2016年9月に電力会社などと実証プラントの建設開始を表明している。IAEが年度内に実証設備を立ち上げれば、シーメンスグループを抜いて、世界初の実証試験になる見込み。

 

 太陽光や風力などの再エネ発電の場合、発電電力を安定的に供給するため、送配電の系統網の強化が必要になる。また、揚水発電所や蓄電池などの利用も検討対象になる。ただ、揚水発電の新規建設は各国とも容易ではなく、蓄電池を系統網に組み込むシステム設計には経済面での課題が大きい。こうした課題から、再エネと蓄熱とを組み合わせた蓄熱発電所の構想が出てきた。

 

 すでに中東や北アフリカ、チリなどで実施されている太陽熱発電(CSP)では、こうした蓄熱の低コスト効果を活用した形だ。例えばチリやドバイで建設が進むギガワット級のCSPでは、太陽熱で発電した電力を、岩塩層などにいったん蓄電するシステムを導入している。CSPの発電コストは15セント/kWhで、太陽光発電は3セント/kWhとCSPコストは割高。だが安定的に電力を供給するために、蓄電池を使うか、蓄熱システムを使うか、の選択では、多くがコスト面での理由で蓄熱方式を採用している。

 

 グローバルベースでも、蓄熱のプロジェクト数は少ないが、それらの実例をみると、全電池システムの6倍もの蓄エネルギー量を保有することが実証されている。ただ、事業者も蓄熱技術のノウハウ流出を嫌って発表も少なく、実態が知られていない。しかし、政府でも内閣府・エネルギー戦略協議会で、蓄熱の重要性を評価しており、蓄エネルギー技術マップにも蓄熱を新たに記載することになったという。

 

http://www.sankeibiz.jp/compliance/news/170804/cpc1708040500001-n1.htm

http://www.iae.or.jp/