エルニーニョ現象が、CO2排出増加を加速。アジア、南米、アフリカの3赤道地帯の森林の吸収力に影響。年間30億㌧の増大。米研究で判明(RIEF)
2017-08-15 16:34:01
2014年から16年にかけて猛威を振るった太平洋赤道域でのエルニーニョ(El Niño)現象の影響で、各地で気温上昇が加速した結果、熱帯雨林のCO2吸収力が低下、逆に年間30億㌧のCO2が大気中に排出された、との推計結果が公表された。熱帯林のCO2排出量は同期間中に、化石燃料やセメントの焼成によるCO2排出量の20%近くにも達したとみられる。
米科学誌「Nature」に掲載された「Massive El Nino sent greenhouse-gas emissions soaring」と題した報告が指摘した。同報告はオレゴン州ポートランドで開いた米生態系学会での議論を、環境ジャーナリストのGabriel Popkin氏がまとめる形で公表された。
化石燃料の焼却によるCO2排出量はグローバルベースで2014~15年とも362億㌧で横ばいとなっている。16年もほぼ同レベルで推移したとみられている。人為のCO2排出量が抑制された分を上回って、自然現象のEl Niñoによって排出増加が続くとすると、温暖化対策はより困難になる可能性もある。
報告は米航空宇宙局(NASA)の二酸化炭素観測衛星の(OCO-2)のデータを活用、対象期間の3年間において、El Niñoが大気中のCO2排出量増加に、3つの地域で異なった影響を与えていたことを検証した。最初の地域は東南アジアで、高温と干害が熱帯雨林地帯での野火の発生件数と影響を拡大した。
アマゾン地域では、干害の影響で熱帯林の生育が抑制され、CO2吸収量が低下した。またアフリカ地域では、高温と雨量の増加が、森林のCO2排出量を増やした、という。
この3年間全体の熱帯雨林地帯からのCO2排出量の増大は、2006年~2015年の間の森林伐採や土地利用の変更に伴って抑制された年平均CO2排出量のほぼ3倍の達するという。El NiñoがCO2排出量にこれほど大きな影響を及ぼしていることはこれまで知られていなかった。
これまでの衛星を使った大気中のCO2排出量の変化データは、森林などの植生が温暖化によってどのような間接的な影響を受けているかを知ることにとどまっていた。しかし、今回使用したNASAの観測衛星のOCO-2では、森林のCO2排出・吸収量がEl Niñoの影響をどう受けているかを観測できるまでになっているという。今回の調査結果はその第一弾とされている。
ワシントン大学の大気科学者のAbigail Swann氏は「驚くべきことは、El Niñoの影響を受けた3つの地域のメカニズムが、すべて同時に発生している点だ。El Niñoが及ぼす影響は複雑で他の要因と絡み合って広がっていることを示す」と指摘している。
またこの間に世界の森林が大きく減少し、15年から16年にかけての1年間だけでも、森林の減少率は前年より50%も増加しているという。特に、東南アジアと南米、アフリカの各地域での減少が目立っている。
ただ、El Niñoが熱帯雨林に及ぼす影響については、まだ不明な点も少なくない。たとえば、中央アフリカやブラジルでは、森林伐採が増大し、年間の森林損失率はほぼ倍増しているが、OCO-2の観測データではCO2排出量の変化に結びついていないという。この点は衛星の観測性能の問題が指摘されている。
たとえば、OCO-2は地上を10km単位で測定し、地球全体の表面積の6%分だけをカバーするに過ぎない。それらのデータを元に、研究者らが全体の濃度を推計する手法をとっている。こうした観測技術の限界はあるものの、 OCO-2のデータは現在得られるCO2実測データとしては最も信頼性が高い。