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米国を襲うハリケーン「ハービー」。温暖化の影響で威力増大か。原油産業の長期掘削による地盤沈下も遠因。12年前の「カトリーナ」被害に迫る可能性も(RIEF)

2017-08-29 17:27:50

 

 米国が地球温暖化加速の影響で勢力を増したハリケーン「ハービー(Harvey)」の猛威の直撃を受けている。トランプ米大統領が擁護する化石燃料業界の代表格である米南部テキサス州の油田地帯は大打撃を受け、相次いで製油所の操業停止に追い込まれるなど、まるで、自然が、温暖化対策に反旗を翻した米国に「仕打ち」をしているかのようだ。

 

 今月25日深夜に米南部テキサス州に上陸した「ハービー」は27日、熱帯低気圧となった。だが、引き続き大量の雨を各地にもたらしており、一部地域では72時間で660mmの降雨量を記録し、さらに降り続けている。まさに米国版nゲリラ豪雨だ。豪雨は河川や貯水池(reservoirs)から溢れ、各地で大洪水をもたらしている。特に、石油の街で、米国第4の都市であるヒューストン周辺で被害が広がっている。

 

 洪水対策に派遣された米軍は、ヒューストンの街を洪水から守るため、近くの貯水池からの排水を加速させていることから、排水路近辺の住民の立ち退き避難を迫られている。またヒューストンの主要水路の一つのバファロー河口では、一時間に15cmの割合で水位が上昇、洪水の警戒ラインを2m以上超えているという。

 

子どもをショッピングカーに入れて避難するヒューストンの住民(27日)
子どもをショッピングカーに入れて避難するヒューストンの住民(27日)

 

 住民の被害は拡大を続けており、避難者は3万人以上、被災者は45万人にのぼるという(28日現在)。また、インフラも打撃を受けている。約250の高速道路や空港、港湾施設が閉鎖された。もっとも影響が大きかったのが、沿岸部にある油田地帯と製油所だ。エクソンモービルがテキサス州ベイタウンの製油所を停止したほか、ボーモント製油所も生産を縮小。このほか、バレロ・エナジー、マラソン・ペトロリアム、ライオンデルバセル・インダストリなどが製油所の稼動を制限したり縮小しているという。

 

 その結果、日量245万バレル分の製油能力が停止し、米国の製油能力の13%超が止まったという。製油能力の低下を受け、ガソリンなどの燃料価格は品不足で急上昇しており、全米の経済・家計に影響を及ぼしている。

 

 Harvey2キャプチャ

 

   これらの被害に温暖化がどのように影響しているのか。一般的に、気候変動の激化でハリケーンなどの巨大化が進む点が指摘される。より明確なのが、被害を受けたテキサス州一帯での化石燃料産業による影響だ。石油地帯の同地域では過去数十年の間に、石炭掘削による地盤の沈下が進み、逆に海面上昇は平均15cm以上起きているという。

 

 一方で、温暖化の進行によって、メキシコ湾沿岸の海面気温は数十年間で平均0.5℃上昇している点もハリケーン強力化の背景との指摘がある。0,5℃の海面気温上昇は、3%の水蒸気の増加を意味する。Haveyが発生した海域では、平均的な海域に比べると0.5~1.0℃の海面温度上昇がみられており、水蒸気の発生率も3~5%以上多いとみられる。水蒸気の増加は、大量の雨、洪水につながる。

 

 海面気温の上昇はメキシコ湾だけで生じているわけではないが、同湾の沿岸部では暖かい海水の深層水が観測されているという。また、気温上昇の継続で、同地域が亜熱帯化し、ハリケーンを運ぶ風の流れが弱まっている現象も指摘される。暴風雨が一気に通り抜けずに、滞留し、迷走し、舞い戻ってくるといった現象は、日本の最近の台風にもあるが、亜熱帯化することで空気の流れが弱まっている可能性があるという。

 

 Harvey3キャプチャ

 

  トランプ米大統領は27日、災害対応のテレビ閣議を開催し、さらに29日には被災地を訪れ、支援を表明するという。被災者への激励は大事だが、ハリケーン被害が温暖化で増幅されている可能性を検証せず、被害者に労わりの言葉を語るだけにとどまると、政治家のリーダーシップへの懸念が深まるばかりだろう。

 

 2005年8月に南部を襲ったハリケーン「カトリーナ」は、ルイジアナ州などで1800人以上の犠牲者を出し、経済的損失を1080億㌦(11兆8800億円)の影響を及ぼした。今回の損失額は、米調査会社の現時点での推計では、300億㌦規模との数値が出ているが、今後被害がさらに拡大する可能性もある。

 

 カトリーナへの対応の遅れで当時のブッシュ(子)政権に非難が集中するとともに、米国民の間でも温暖化に対する認識が広がった。今度も、トランプ大統領の支持層が、自然災害の脅威を目の当たりにして、大統領の「温暖化対策軽視」の姿勢に注文をつけることができるかどうかが、問われている。