米国のハリケーン・ハービーの経済的損害額、過去最大の1900億㌦の可能性も。石油精製操業停止等の影響がグローバルに波及の公算。保険会社は温暖化への備え強化を要請（RIEF）
2017-09-04 08:35:14
米国南部を襲ったハリケーン・ハービー（Harvey）の被害はまだ続いているが、経済的損害額はこれまで最も大きかった2005年のハリケーン・カトリーナを上回る公算が出てきた。損害額拡大の最大の要因は、テキサス州一帯で石油開発・製油所等が操業停止に陥ったためで、現時点で900億㌦～1900億㌦（10兆～20兆1000億円）と見込まれている。
米国を襲ったハリケーンで、これまで被害額が最も大きかったのは2005年のハリケーン・カトリーナ。当時の被害額で1080億㌦（11兆8800億円）、現在の市場価格で1600億㌦（17兆6000億円）と見込まれている。カトリーナの場合、1800人の犠牲者も出した。今回は犠牲者は約50人にとどまったが、多くの精油所が操業を停止、インフラのダメージも大きくなり、経済的損害額が膨らんでいるのが特徴だ。http://rief-jp.org/ct4/72331
各保険会社やリスク評価会社等の推計は、現時点では900億㌦～1900億㌦とかなりの幅で見積もられている。英Grantham Research InstituteのBob Ward氏は「石油産業の拠点であるヒューストンの復興が遅れると、経済的損害はさらに拡大する可能性が高い」と指摘している。石油精油機能の低下の影響は、米国だけでなく英国のガソリン価格の上昇懸念にもつながっているという。
（これまでの米国を襲った自然災害の経済的損害額ランキング）
ハリケーンによる損害額のほぼ半分は、通常、保険契約によってカバーされる。今回も同様とみられている。工場等の操業停止に伴う企業損失は保険でカバーされるケースが多い。ただ、保険金支払額が増大すると、翌年以降の保険料が膨らみ、保険加入者の負担は高まる。企業によっては保険料支払いを嫌って不保険を選択するリスクも出てくる。
保険会社は早い段階から温暖化の影響が自然災害による経済的損失を増やすことに警鐘を鳴らしてきた。ドイツの再保険大手Munich Reの気候変動・公的部門の責任者であるErnst Rauch氏は「われわれは、すでに1970年代から気候変動による影響について評価してきた。政府や自治体などの公的な立場でリスク対応をすべき主体や社会が、グローバルレベルで気候変動に備える必要がある」と警告している。
米国ではハリケーン・カトリーナによる人命、経済面両方で甚大な被害が発生したことで、それまで温暖化問題への関心が低かった米国社会での認識が高まった経緯がある。しかし、トランプ政権はその後の米国民の温暖化問題への理解の積み重ねを否定するように、政策修正を進めている。パリ協定からの離脱のほか、国連気候変動交渉の特別大使の廃止等、「反温暖化政策」を打ち出している。http://rief-jp.org/ct4/72376
もう一つ再保険大手のSwiss Reのグローバル洪水被害評価部門のCaspar Honegger氏は、2012年にNY等を襲ったハリケーン・サンディの後、今後40年間の北米での自然災害コストを推計したところ、温暖化による海面上昇とハリケーン襲来回数の増加によって、年間平均損失額は現状より170%増の440億㌦に上る、との結果に至ったという。
またオンライン不動産会社のZillow Estimatesの推計では、今世紀末までに米国では約190万戸（資産価値8820億㌦=約97兆円）の個人住宅が海面上昇と、ハリケーン等による沿岸部や河川の決壊等による被害増大で、水没被害に直面するリスクがあると指摘している。特に影響が大きいのはトランプ大統領も別荘地を持つフロリダ州で、同州では8つの不動産のうち1戸の割合で影響を受けるという。
世界の主要な保険会社29社で構成する「Climate Wise」は、気候変動が経済社会に及ぼす影響の増大に警鐘を鳴らす活動を展開している。同グループの分析では、気候関連の壊滅的被害( weather catastrophes )は、1950年代に比べて、6倍も頻繁に発生している、という。洪水や熱波等に対応するための政策の強化と、投資の拡大を、提言している。
Research Institute for Environmental Finance