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水の蒸発エネルギーを発電に活用、年間発電量の7割相当。水源の熱量保存力や水資源蒸発の半減などの効果も期待。米コロンビア大の研究チーム。課題はエネルギー採取設備の開発に(RIEF)

2017-10-02 08:00:00

evaporation1キャプチャ

 

   地球に降り注ぐ太陽光による地表水分の蒸発作用が、膨大なエネルギー源になるとの研究成果が報告された。現在の太陽光や風力発電技術による電力供給量とほぼ同じレベルのエネルギーを生み出すほか、水資源の蒸発による損失を半減させる効果が期待されるという。推計では、米国だけで年間発電量の約70%に相当する325GWのエネルギーを生み出すという。米コロンビア大学の研究チームが指摘した。

 

 米コロンビア大のOzgur Sahin氏、Ahmet-Hamdi Cavusoglu、Pierre Gentine、ニューヨーク大のXi Chenの各氏が共同で論文を執筆、英科学誌Nature Communicationsに発表した。

 

 論文によると、「蒸発」には秘められた膨大なエネルギーがあるほか、水には熱量を保存するエネルギー貯蓄力も備わっており、エネルギー需要の低い時には、この水の多様な力を活用できるとしている。

 

 膨大な蒸発エネルギーを利用するには、空気と水の境界面にエネルギーを摂取する装置を設置する必要がある。湖や池などから蒸発する水蒸気が、大気中に拡散する前に、特殊な装置で捕捉することになる。研究チームは、水が気体(水蒸気)に変わるプロセスである蒸発の潜在的なエネルギー生成能力をモデル化した。

 

 研究チームは、湿度、風速、気温などが蒸発速度に及ぼす影響を踏まえ、蒸発によって生成されるエネルギーを補足できると仮定したうえで計算した。分析対象とした米国内において、面積10万㎡を上回る水資源からの潜在蒸発量を算出した。五大湖は対象から除外した。

 

 蒸発のエネルギーを採取する装置は、細菌胞子の自然作用に基づく仕組みを活用する可能性がある。細菌が過酷な環境状態に応じて形成する微小構造体の胞子は、環境状態が改善されてから新たな細菌を生じさせるために干ばつや凍結を生き抜くことができる。

 

 Sahin氏は「胞子には湿度が高いと水分を吸収して膨張し、湿度が低いと水分を放出して縮小する性質がある。この変化の過程で、胞子は筋肉のように振る舞う」という。この胞子の機能を応用して、蒸発が起きている間など、湿度の変化に応じてエネルギーを生成する材料を生み出せるかがカギとなる。

 

 エネルギーを採取する装置に、胞子を塗布処理した薄い帯状のビニールテープを内蔵させ、このテープが湿度の変化に伴って伸び縮みする構造とすることが考えられている。このテープの移動端を発電機に接続して電気を生み出す。

 

 ダムや湖のような水量の豊富な水源では、水の熱量保存力も十分に効果を発揮する。このため、研究チームは太陽光や風力などのような日照や風況によって発電力が変動する再生可能エネルギー発電と、蒸発のエネルギー採取と水源の蓄熱性とを組み合わせることで、より効率的で、経済的なクリーンエネルギー利用が進むと指摘している。

 

 想定される蒸発エネルギー採取のサイクルは、上図のようになる。まずaでは、水中に投射された太陽光エネルギーは、水中で対流する分と蒸発する分とでバランスする。bでは、水源の表面に水反応素材によって「蒸発駆動エンジン」を設置し、蒸発エネルギーを摂取する。cは蒸発エネルギーを採取する状況で、dでは、水面の装置と大気との間での配分の調整を行う。eはエネルギー採取後の新たなエネルギーバランスを意味する。

 

 蒸発エネルギーと再エネとの組み合わせは、ダムなどの水力発電に使用される貯水池などのほか、湖などでの洋上太陽光発電の設置との組み合わせも考えられる。日本でも各地で応用できそうだ。

 

https://www.nature.com/articles/s41467-017-00581-w