HOME11.CSR |NHK 女性記者が3年前に過労死。「遺族が望まなかった」と公表せず。倫理・行動憲章で「職場環境の改善を追求」とうたうも、実態伴わず。企業の社会的責任(CSR)意識も希薄(RIEF) |

NHK 女性記者が3年前に過労死。「遺族が望まなかった」と公表せず。倫理・行動憲章で「職場環境の改善を追求」とうたうも、実態伴わず。企業の社会的責任(CSR)意識も希薄(RIEF)

2017-10-06 17:54:14

NHK1キャプチャ

 

 日本放送協会(NHK)の女性記者(当時31)が長時間労働による過労死で2013年7月に死亡、翌14年に労災認定を受けていたことが、3年遅れで公表された。報道によると、NHKは、「当初は遺族が公表を望まなかった」と説明している。この間、NHKは侵入社員が過労自殺した電通などのブラック企業に関する報道を積極的に展開、ワークライフバランスの尊重を宣言してきた。実態と建前のギャップがどれほどあるのか。報道機関である以上、自らの取材で問題の解明をしてもらいたい。

 

 NHKや遺族の説明によると、亡くなったのは、入局9年目だった佐戸未和(さど・みわ)さん。2005年3月に一橋大法学部を卒業後、同年4月にNHKに入局。鹿児島放送局を経て、10年7月から東京・渋谷の首都圏放送センターで勤務していた。主に東京都政の取材を担当。亡くなる直前は、13年6月の都議選、同7月の参院選の報道にかかわった。参院選の投開票から3日後の7月24日ごろ、都内の自宅でうっ血性心不全を起こして急死した。



 渋谷労基署は、亡くなる直前の13年6月下旬から7月下旬まで1カ月間の時間外労働(残業)は159時間37分。5月下旬からの1カ月間も146時間57分にのぼった。労基署は都議選と参院選の取材で「深夜に及ぶ業務や十分な休日の確保もできない状況にあった」と認定。「相当の疲労の蓄積、恒常的な睡眠不足の状態であったことが推測される」とした。

 

NHK2キャプチャ

  報道によると、担当する編成局計画管理部長の山内昌彦氏は、大前提として、佐戸さんの両親から過労死認定の事実を世間に公表してほしくないと、代理人を通じて求められていた、と説明。そのうえで、電通の新人社員の過労死などブラック企業問題をNHKが番組で再三報道してきたことなどから、「ご両親がそれ(過労死問題)を伝えるNHKをどう見ていたかをこの夏以降に聞かせていただき、こちらとしても忸怩たる思いもあります」と述べた。https://www.daily.co.jp/gossip/2017/10/05/0010617307.shtml

 

 NHKは電通事件をはじめ、ブラック企業問題を積極的に取り上げてきた。昨年末には民間のNPOが主催する「ブラック企業大賞」の詳細な内容について、夜7時のニュースで報道した。他の大手メディアではあまり報道していない段階だった。他の民放や新聞社は、最大広告会社である電通への配慮もあって、電通問題もブラック企業問題も、必要最小限の扱いしかしていなかったことに比べ、NHKのこの問題への取り組みは際立っていた。

 

 ただ、山内氏の説明のように遺族から公表を控えるよう要請があったとしても、記者発表したり、番組として取り上げなくても、社内での再発防止の取り組みは進めるべきであり、遺族がそこまで「控えてくれ」といったわけではないだろう。では、NHK内部の「働き方改革」はどうなっているのか。

 

 NHKの倫理・行動憲章では、「公共放送の使命を貫きます」など5つの憲章内容を掲げ、その中に「活力あるよい職場環境を追求します」「コンプライアンスを徹底します」の2つの行動公約がある。前者は、まさに過労死などに至らないための職場環境を維持する意味であり、後者は労基法違反となるような労働条件を改善しなければならない、ことを意味している。

 

NHK3キャプチャ

 

 佐戸さんの死亡、過労死認定後に、NHKが自ら掲げる憲章に沿った改善策をどうとったのか、という説明は現時点では報道されていない。また憲章を受けた形の「行動指針」の中で、「コンプライアンスを徹底します」「活力あるより良い職場環境を追求します」として、「公私の区別を尊重し」「人権、人格を尊重し」「業務のあらゆる場面において安全管理を徹底し」などと記載している。

 

 過労死した記者は、「私」の時間を業務(公)に最大限投じさせられ、「生存権」という基本的な人権を放棄させられ、安全と正反対の「死」を突きつけられたことになる。またリスクマネジメントとしての内部統制推進の活動方針は、毎年度記載しているが、ここ3年の内容は6行分の方針内容と、4項目の取り組み事項の記載だけで、ほとんどその内容は変わっていない。おざなりだ。数年前に比べて情報開示量も大きく減っている。もちろん、職員の過剰労働対策などについては一言も触れていない。

 

 女性の労働については、「女性活躍推進法行動計画」を別途、公表している。その中で、女性の管理職割合を10%以上にするなどの目標設定とともに、「ワークライフバランスや多様性をより尊重する組織を目指し、『働き方改革』を進める」と取り組み内容を示している。ただ、その視点は育児・介護であり、男女を問わず労働環境を改善する視点にはなっていない。

 

 不思議に思うのは、ESG情報のうち、環境報告書は作成しているが、企業の社会的責任(CSR)についての言及がない点だ。NHKは放送法による特殊法人ではあるが、約1万人の職員を抱えている大組織であり、放送という本来の業務だけではない社会的責任があるはずだ。職員の健康・安全面への配慮もその一つだ。それも文言で「配慮します」と書くだけではなく、実際の労働状況の管理・是正の構造になっていなければ、社会的責任は果たせない。

 

 
 遺族は今夏以降、女性の過労死を局内全体に周知して再発防止に生かすようNHKに強く求めてきたという。報道によると、佐戸さんの父は「適切な労務管理が行われず、長時間労働が放置されていた。NHKは未和の死を忘れず、全職員で未和の死を受けとめ、再発防止に力を尽くしてほしい」と話しているという。

 

 NHKは最近では、7月27日の「クローズアップゲンダイ+」で「密着・電通“働き方改革”はなるか?」と題して電通の改革に焦点を合わせた特集を放送した。同様に、MHKの体質の総点検と、改革の可能性についても、公正な視点でメスを入れた報道を期待したい。


 http://www.nhk.or.jp/pr/