HOME11.CSR |東芝が内部管理報告「経営陣、過度に利益追求」。けん制力のないガバナンス構造の要因に、取締役会、指名委員会等の機能不全。ガバナンスの「非財務要因」の不備浮き彫り(RIEF)。 |

東芝が内部管理報告「経営陣、過度に利益追求」。けん制力のないガバナンス構造の要因に、取締役会、指名委員会等の機能不全。ガバナンスの「非財務要因」の不備浮き彫り(RIEF)。

2017-10-22 16:35:43

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 東芝は、「特設注意市場(特注)銘柄」を解除されたことを受け、株主などステークホルダー向けに「内部管理体制の改善報告」をまとめ、公表した。会計不祥事や米原子力発電事業での巨額損失計上等に至った要因となった歴代社長の間違ったリーダーシップについては、「業界の同業他社だけでなく、他の歴代社長へのライバル意識等に強く執着していた可能性があった」と経営の歪みを指摘。さらに、そうした経営の歪みを是正するガバナンス体制も形だけで、実質的に機能しなかったと分析している。

 

 東芝は10月12日、東京、名古屋の両証券取引所から、内部管理体制に問題があるとして15年の会計不祥事発覚後に指定された「特設注意市場(特注)銘柄」を解除された。ステークホルダーに対する改善報告の公表は16年8月以来で節目の時期に公表した。第三者委員会による調査と並行する形で、社として全社的な問題点の洗い直しと改善策をまとめた。

 

  最近、企業の価値評価で、財務評価に加えて、ESG(環境、社会、ガバナンス)の非財務評価の重要性が指摘されている。だが、東芝のガバナンス不祥事の要因は、取締役会や指名委員会などのガバナンスの仕組みの存否だけでは不十分であり、「ガバナンスの有効性をどう確保するか、という課題を浮き彫りにした形でもある。

 

 報告書では、不祥事に至った社内体制の問題認識として「経営方針の歪み」「ガバナンスの形骸化」「コンプライアンス意識の希薄化」の3点を指摘している。まず、「経営方針の歪み」では、西田厚聡、佐々木則夫、田中久雄の各氏の歴代社長が財務会計に対する真摯な厳格さに欠け、社内のカンパニー各社長に対して、達成困難な損益改善を再三要求した点を挙げている。

 

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 そうなった要因として①歴代社長が厳しい事業環境での危機感を持っていた②同業他社のほか、他の歴代社長へのライバル意識に強く執着していた可能性③歴代社長のカンパニーへの要請にカンパニー側が応えてきた、などの点を指摘した。加えて、Westinghouse(WH)買収等の原子力関連事業推進の方針が、2011年3月の東京電力福島第一原発事故以降、リスク判断の状況変化が起きていたのに、十分に反映できなかったことも言及している。

 

 「ガバナンスの形骸化」では、そうした経営判断の歪みに対して、取締役会、監査委員会、内部監査部門、財務部門等が本来のけん制機能を発揮できなかった原因として、いくつかの点を指摘している。

 

 たとえば、①取締役会は社内取締役が過半数を大幅に上回るほか、社外取締役も専門性が多様でなく、経営層に対して批判的な意見を持つ人を選定していなかった②取締役会に十分な情報提供がなく、モニタリング機能が十分でなかった③指名委員会は社外取締役が多数だったが、会長が委員長に就き、実質的に前任社長が後任を選ぶ形だった④監査委員会は歴代CFOが監査委員長に就任したため、過去の不正会計等を”自己監査”する形だった――など。

 

 こうした経営の要請が執行役やカンパニー各社の現場レベルでの「コンプライアンス意識の希薄化」を広めたとみている。特に財務の現場は、外部監査人からの財務面での不備の指摘を受けても、改善よりも隠ぺいに向かう構造が温存されたと指摘している。

 

 また内部通報制度は、社内のリスマネジメント部と外部弁護士事務所に窓口を設けていた。だが、監査委員会に十分に情報が伝わっていなかったほか、社員にも制度の周知が不十分だった。窓口が執行部側に設置されていたことから、経営トップに関する通報がしづらい状況にあった、と分析している。

 

 「経営判断プロセスの課題」では、東芝を苦境に陥れた米原発事業の巨額損失にフォーカスして問題点を指摘している。東芝は2006年に約54億㌦(現在のレートで約6100億円)を投じてWHを買収した。しかし、11年の福島原発事故後、経営環境は一変したのに、原発事業推進を続け、15年にWHが原発建設を手がける米建設会社を買い取って巨額損失の要因を作った。

 

 報告書はその要因として、「既に成立した企業買収(=WH買収)を意識するあまり、リスク認識やリスク負担の許容性の判断に無意識のバイアスがかかった可能性がある」とした。歴代社長が損益改善を至上命令とする中で、リスクにバイアスがかかった体制が続いたことを認めた。東芝は現在も、13年に米テキサス州で液化天然ガス(LNG)供給事業に参画し最大で1兆円の損失を招きかねないリスクを抱えている。この点についても、リスク判断に甘さがあったと指摘した。

 

 これらの課題を改善策として、取締役の過半を社外取締役とし議長は社外に就く、独立社外取締役だけで構成する指名委員会の設置(すでに9月30日付で発足)、社長信任調査の実施・継続、社長解任プロセスの明確化、執行役選任プロセスの改善、予算統制の見直し、カンパニーの業績評価の見直しなどの取り組みを示している。

 

 総じてみると、指名委員会設置や、社外取締役登用など、ガバナンスの形だけを整えることに専念してきたこれまでの体制から、経営者の暴走をチェックするための「機能するガバナンス」への転換を目指した対応である。だが、本当にそれが機能するかは、これからの同社の経営者、指名委員、社外取締役、さらには執行役や現場の一人一人が、「東芝の価値」をどう回復し、高めていくかという決意と実践力次第である。
 同報告書の一つ一つの指摘をみると、単に東芝だけに特異な要因だったとも思えない。東芝を他山の石として、各社が自らのガバナンスがリスクに直面した時に本当に機能するのか、あるいはリスクに直面する前に内部でけん制が働くのか、という点を常にチェックし、改善・改革する必要がある。そうした視点を持つ経営者がいるかどうかが、グローバル市場で生き残れる競争条件の一つでもある。
http://www.toshiba.co.jp/about/ir/jp/news/20171020_1.pdf