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ニュージーランドの新首相、ジャシンダ・アーダーンさん。現実主義と理想論を両にらみした、柔軟で強靭な温暖化対策を展開(RIEF)

2017-11-05 12:47:50

jesind1キャプチャ

 

 ニュージーランドの新連立政権のジャシンダ・アーダーン(Jacinda Ardern)首相の政策展開に注目が集まっている。環太平洋パートナーシップ協定(TPP)の再交渉のほか、環境関連では、2050年までのゼロ・カーボン目標や排出権取引制度の強化、海面上昇に直面する太平洋諸島の住民向けに「気候変動難民ビザ」を目指すなど、矢継ぎ早に明確な政策展開を進めており、同国では「強く若い女性宰相」を支持する「ジャシンダマニア(Jasindamania)」旋風が巻き上がっている。

 

 アーダーン首相は、今年3月に労働党の副党首、8月に党首に就任、9月の総選挙では第二党だったが、ニュージーランドファースト党との連立で、政権奪還に成功、首相に就任した。トントン拍子で急躍進の37歳は、メリハリの利いた言動で、女性票だけでなく、若者から高齢者まで幅広い支持を得ている。

 

 同氏の人気を高めたのは、労働党党首に選ばれた直後、テレビ出演でのやり取り。男性出演者が、彼女に対して「国民はみんな(アーダーン氏が子どもを持ちたい意志があるかどうか)知りたがっているはずだ」「つまり、首相が産休・育休を取ってもいいと思うか」と問いかけた。

 

 これに対して彼女は「私自身は政治家として、全てをオープンにしているから(尋ねられても)いい。でも、他の全ての女性に対して、2017年(今現在)にその質問に答えろというのは不適切」、「子どもが欲しいかどうかは個人の選択。男性に同じことを聞くのか」と、きっぱりと切り返した。

 

jesinda2キャプチャ

 

 このやり取りで、「ジャシンダマニア」は労働党支持者から、国中に広がったと言われる。単に鼻っ柱が強いだけではない。気候難民ビザ発行の一方で、同国で問題化している中国等からの移民の急増を抑える政策や外国人による中古住宅購入禁止などを公約。TPP再交渉を求めつつ、農業関係者が反対する水税導入も求めている。http://rief-jp.org/ct12/74112?ctid=69

 

 子供の貧困問題、大学・職業専門学校費用の無料化、国内全ての河川を綺麗で泳げるように取り組むことなども宣言している。

 

 2001年に同国のワイコト大学を卒業後、当時の労働党政権のヘレン・クラーク首相のオフィスでリサーチャーとして働き始め、その後、英国に渡ってブレア政権の政策アドバイザーの一人になるなど、行動力も抜群。2008年に初めて国会議員に就任した。つまり初当選から9年で首相の座に就いたわけだ。

 

 一貫して労働党に身を置くが、自らを社会民主主義者であり、進歩主義者であり、共和主義者であり、フェミニストと呼ぶ。つまり、現実路線と理想主義を両にらみした柔軟性と強靭性が持ち味でもある。それが、移民規制を強化する一方で、気候難民受け入れや、ゼロカーボン目標の宣言などにつながっているようだ。

 

 温暖化問題は彼女にとって「理想への挑戦」ではなく、「現実」の取り組み課題である。ニュージーランドは、2008年から森林部門を対象に排出量取引制度の運用を始め、2010年からはエネルギー部門、産業プロセス部門、液体化石燃料部門に対象を拡大している、排出権取引の先進国として知られる。http://rief-jp.org/ct4/73822?ctid=69

 

  その経験を生かして今年になって、近く全国版の排出権取引を導入する中国や、2年前に導入した韓国などとの間で、国際的な排出権取引を目指した協力関係を進めている。国際的に高まるカーボン・プライシング政策を先導する勢いだ。いつまでたっても排出権取引に踏み出せない日本政府との違いは明確だ。

 

Jacinda ArdernさんとClarke Gayford氏(右)
Jacinda ArdernさんとClarke Gayford氏(右)

 

 私生活では、テレビ・プレゼンターのClarke Gayford氏がパートナー。子供はいないが、まだら模様の「多指猫(Polydactyl cat)」のパドルスを飼っているという。

 

http://www.labour.org.nz/