CDP、森林伐採・破壊による森林関連産業の「座礁資産リスク」を指摘。金融安定理事会（FSB）タスクフォース（TCFD）報告で金融・投資家の「リスク開示」要求高まると指摘（RIEF）
2017-11-28 23:33:21
英環境NGOのCDP（旧カーボン・ディスクロージャー・プロジェクト）は、企業がそのバリューチェーンで抱える「森林破壊リスク」に対して十分な対応をとらないと、「ストランデッド・アセット（座礁資産）」を生み出すことにつながる、と警告する報告書をまとめた。
CDPの報告書は「From risk to revenue: the investment opportunity in addressing corporate deforestation」とのタイトル。ビジネスが森林に関連するグローバル企業、1103社に対して、アンケートを実施、272社から回答を得た。 CDPの推計では、各国の上場企業で森林破壊の影響を受けると思われる企業の本年の総売上推計額は9410億㌦（約105兆4000億円）と、前年より3.9%増となった。
これらの企業の企業価値が座礁するリスクが高まるのは、金融安定理事会（FSB）の気候関連財務情報開示タスクフォース（TCFD）が6月に公表した報告書で、森林関連産業を、特に名指しして気候変動リスクの開示を求める方向を示したことが大きい。
座礁資産は、化石燃料資源などの保有資産多いと、温暖化の進展でそれらの資産の使用が困難になり、資産価格の大幅な減損評価を余儀なくされる、との考え方だ。FSBのTCFDは、こうした気候変動に伴う資産価格の急激で大規模な変動が金融システムに及ぼす影響を未然に防ぐために、どのような対応策が必要かをまとめた。
CO2の吸収源でもある森林の過剰・不法伐採リスクは、気候変動リスクの一つ。TCFDでは、企業一般の気候変動リスクの情報開示とは別に、エネルギー、素材と建物、運輸、農業・食料・林業製品の非金融4セクターについて、特別のガイダンスを示している。森林破壊リスクは、このうち最後の林業製品に関連する企業の情報開示につながる。
森林破壊は森林のCO2吸収力を奪うことになり、その結果、世界の年間CO2排出量の約15%が森林破壊に起因しているとされる。この森林破壊を防げば、年間、工場等の排出源から削減が必要な量の3分の1をカバーでき、2030年までに年間約1000億㌦以上の節約にもつながるという。逆にそうした対応をとらない企業や林業セクターは、金融機関や投資家から、温暖化対策を十分にとっていないとの評価を受けるリスクが高まることになる。
たとえば、マレーシアの最大のコングロマリット企業の一つである「IOI Corporation」の株価は、2016年6月に、生産するパーム油の持続可能性認証を一時的に喪失した後、18%も下落した。時価13億㌦分を一気に失ったことになる。
金融機関や投資家が、こうした森林破壊リスクを重要視していることは、CDPの森林プログラムに参加する投資家の数が、2013年には184機関だったのが、今年は倍以上の380機関に増えていることでもわかる。
CDPの森林担当責任者のMorgan Gillespy氏は「森林を守ることは、安定した気候のためにも、安定した経済のためにも必須条件となっている。われわれは投資家に対して、関連企業へのエンゲージメント活動を強めるよう求めている」と述べている。
ただCDPの調査に回答した272社のうちで、森林破壊に対して明確な対応を取り、情報開示もしている企業（Aリスト）は2017年は、 L’Oreal, Brambles、 SCA、 Tetra Park、 UPM-Kymmene Corporation、 Unileverの6社だけだった。日本企業は評価対象にあがっていない。
Gillespy氏は「今年にAリスト評価を受けた6社は、『ゼロ森林破壊』にコミットするリーダーシップを発揮してくれた。しかし、投資家はもっと幅広いレベルでの森林破壊リスクへの対応を期待している」と指摘している。
Research Institute for Environmental Finance