HOME10.電力・エネルギー |再エネ電力の送電網接続問題、電力会社の「空き容量ゼロ」の主張に対し、実際の使用量は全国平均で2割以下。エネルギー・電力政策の不備浮き彫りに。京大の研究チームが試算公表(各紙) |

再エネ電力の送電網接続問題、電力会社の「空き容量ゼロ」の主張に対し、実際の使用量は全国平均で2割以下。エネルギー・電力政策の不備浮き彫りに。京大の研究チームが試算公表(各紙)

2018-01-28 21:15:05

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 各紙の報道によると、風力や太陽光発電などの再生可能エネルギー発電電力が、既存電力会社の送電網への接続が難航する問題が各地で起きている。電力会社が「空き容量ゼロ」などとして接続に後ろ向きなのに対して、実際には大手電力会社10社平均で利用率は19.4%にとどまるとの試算結果を京都大学の安田陽特任教授らが分析・公表した。

 

 朝日新聞が報道した。安田教授らの試算は、29日に東京都内で開かれるシンポジウムで発表される予定という。再エネ発電の普及を阻む障害として、既存電力会社が、送電容量の不足などを理由として、新規接続を認めず、接続に際して膨大な設備増強費用を要求するなどの事態が各地で起きている。

 

 既存電力会社側は、保有する稼働停止中の原発や火力発電などの発電能力をすべて積み上げて、送電量をはじいている。しかし、稼働が先送りになっている原発や稼働していない火力なども少なくなく、実際の発電量と送電線利用量との間には、大きな隔たりがある。

 

 京大の再生可能エネルギー経済学講座の安田陽、山家公雄両特任教授らは、欧米で一般的に使用される実際に流れる電力量を基に送電線の使用量を計算した。具体的には、電力広域的運営推進機関(広域機関)の公表データ(昨年9月~今年8月)から、東北地方の50万ボルトと27万5千ボルトの基幹送電線について、1年間に送電線に流せる電気の最大量と実際に流れた量を比較した。

 

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 その結果、地元の東北電力が「空き容量ゼロ」と説明してきた14の基幹送電線の利用率は、50万ボルトでは十和田幹線(上北~岩手)が2.0%、北上幹線(岩手~宮城)3.4%、27万5千ボルトでは秋田幹線(秋田~羽後)11.4%、山形幹線(新庄~西山形)4.8%などと軒並み低かった。最大でも北奥幹線(能代~青森)の18.2%と2割に満たない。

 

 東北電は昨年5月、青森、岩手、秋田各県の基幹送電線の容量が「満杯」と発表した。その後、停電などの恐れがあるとして、50kW以上の新たな発電設備はほぼつなげない状況が続いている。山形県でも同様な状況が起きている。

 

 さらに東北電は、新たな発電設備とつなぐには送電線の増強が必要として、接続を希望する再生エネ事業者らに工事負担金を求めている。負担金は数千万~数億円とみられる。事業者から「空いている送電線をもっと有効利用すべきだ」との声が上がっている。

 

 両教授の分析の結果、全国の基幹送電線の平均利用率は19.4%。地域別では東京電力が27.0%で最も高く、最低は東北電力の12.0%。一時的に利用率が100%を超える「送電混雑」が1回でもあったのは60路線。このうち東電が22路線だった。

 

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 「空き容量ゼロ」とされた基幹送電線は全国に139路線あった。だが、実際の平均利用率は23.0%で、全体平均と同程度。「空き容量ゼロ」路線の割合は、東北電、中部電力、北海道電力、東電で高く、西日本の電力会社は少ないという。東北電、北海道電などでは、空き容量ゼロの利用率が、管内全体の基幹送電線より低かった。

 

 安田教授は「再生エネ導入には既存設備を有効活用するのが世界の常識だが、それをせず新規参入者に負担が強いられている」と話す。東北電は「広域機関の公表データは現状の一断面で、これだけで設備増強の要否を評価すべきではない。送電線の整備計画は、接続予定の電源や将来の需要動向などを考慮して策定している」としている。

 

 朝日新聞の報道では、大手電力関係者の話として「空き容量は、送電線に流れる電気の現在の実測値だけで評価できるものではない」との説明を紹介したうえで、欧米では、実際の電気量を基にしたルールで送電線を運用して、再生エネの大量導入が進んでいることを伝えている。既存電力会社の「日本流解釈」で、新規参入電力に対して事実上の参入障壁を設定していることになる。

 

 基本的には、送電網を既存電力会社に実質的に依存したままの電力自由化、再エネ支援というエネルギー政策の矛盾が根底にある。欧米のように、送電事業網は既存電力会社とは法的にも切り離すか、接続の義務化と接続料の公平負担のルール化を早急に整備する必要がある。

 

https://digital.asahi.com/articles/ASL1S4GMYL1SULZU00B.html