独フォルクスワーゲンなど主要自動車3社出資の研究団体が、人やサルを使ったディーゼル車の排ガス実験。「クリーン・ディーゼル」をアピールするための「ダーティーな手法」(RIEF)
2018-01-30 21:32:43
各紙の報道によると、ドイツのフォルクスワーゲン(VW)と、ダイムラー、BMWの各ドイツ自動車メーカーと共同で支援してきた研究団体が、自動車からの排ガス実験に人やサルを使っていたことが明るみに出て、各地から批判を浴びている。メルケル首相も緊急調査を要請した。
問題の実験を行っていたのは、「輸送セクターにおける環境と健康についての欧州研究グループ(EUGT)」。同団体は独自動車3社の資金支援を受け、米国の機関に研究を委託した。実験は、2015年5月に米ニューメキシコ州でLovelace Respiratory Research Institute (LRRI)によって行われた。
米ニューヨークタイムズ紙などによると、実験は締め切った部屋の中でVWのディーゼル車「ビートル」のエンジンをかけて排ガスを排出させ、その中に4時間にわたって排ガスを10匹のサル(ジャワ・モンキー)に入れたという。排ガスを吸ったサルたちの健康状態を調べるのが目的だった。
比較のため、米フォード社のF-250を使って同様のサルを使った実験も行った。ただ、F-250は旧式のため、最初からビートルよりも大量の排ガスを出すことがわかっていた。排ガスを吸ったサルたちは次第に麻痺し出し、のどが詰まって炎症を起こしたという。
実験の目的は、当時、独自動車メーカーがディーゼル車からの排ガスが窒素酸化物(Nox)などの汚染物質が少ないことをアピールする「クリーンディーゼル」のためのデータ作りだった。しかし、実際のディーゼル車の「クリーン性」は、2015年に発覚したスキャンダルで、試験時だけNOxなどの有害物質を抑える装置が搭載されていたことが判明、VWは世界的に非難を浴びた。
南ドイツ新聞によると、実験は、その後、25人の若者と、対照として健康な人とを選んで実施されたという。明らかな人体実験になる。
今回の米研究機関での実験の内容を、VWが把握していたかどうかは、現時点では明らかにされていない。VWの監査委員会の代表であるHans Dieter Pötsch氏は「こうした実験がどうやって行われたのか、全く理解できない」と、VWは関知してこなかったとのコメントを出している。ダイムラーと、BMWも自分たちはテストにかかわっておらず、その実験結果についても自社の開発に応用していない、と火の粉を払うのに大わらわだ。
問題の実験を委託したEUGTは2007年に独3社と独部品大手のボッシュ(13年に引き揚げ)が資金を出して設立した。すでに17年に解散している。実験を引き受けたLRRIは、VWの排ガススキャンダルが発覚した後、2015年秋にEUGTの研究から撤退したという。LRRIの社長、Robert Rubin 氏は「排ガススキャンダルの発覚で、われわれの研究も間違いだと決断した」と述べている。
相次ぐ独自動車メーカー関連の不祥事に、バーバラ・ヘンドリック環境相は「自動車産業全体で、いかがわしい手法を使って科学的事実をでっち上げようとした。排ガススキャンダルの教訓を全くわかっていない」と激しく非難した。ドイツ企業の信用低下の阻止に躍起になっている感じでもある。