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「2017年サステナブルファイナンス大賞」受賞企業インタビュー① 大賞は戸田建設の「再生可能エネルギー事業への投資のためのグリーンボンド発行」。長崎・五島市沖での浮体式洋上風力発電事業で100億円の資金調達(RIEF)

2018-02-16 12:35:54

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 環境金融研究機構(RIEF)は「第3回サステナブルファイナンス大賞」で9つの金融機関等を表彰しました。各受賞機関の担当の方に受賞内容を紹介していただきます。第一回は、長崎県五島市沖で計画中の浮体式洋上風力発電事業のためにグリーンボンドで資金調達をし、大賞に選ばれた戸田建設。執行役員管理本部執務の山嵜俊博(やまざき・としひろ)氏、総合企画部次長の松井一(まつい・はじめ)氏に、事業の概要等を聞きました。

 

――グリーンボンド発行の対象となった浮体式洋上風力発電事業のいきさつをお聞かせください。

 

 山嵜氏:海洋構造物(メガフロート)を研究されていた京都大学の宇都宮智昭准教授(現在九州大学教授)と、大学で同窓だった者がわが社におり、そこから新しい技術としての浮体式洋上風力発電の共同研究開発が始まりました。2007年に100分の1のスケールで実験を始め、だんだんスケールアップし、2010年に環境省の実証事業に選定されました。

 

――五島市沖を選んだのは。

 

 山嵜氏:浮体式の洋上風力発電開発では宇都宮先生は、わが国の権威の1人です。先生のアドバイスを聞きながら、実際にどこで実験すればいいか、全国を調べて、立地場所を先生と一緒に探しました。五島市沖はまず、風況がいいということがあります。また五島市自体の人口が減っており、このままでは島として成り立っていかなくなるという危機感から、再生可能エネルギーを導入し、関連の企業を誘致することで雇用につなげるなど普及拡大・地方創生への取組に熱心で、受け入れのニーズがありました。自治体の協力が大きかったですね。

 

長崎・五島市沖に建設された実証機
長崎・五島市沖に建設された実証機

 

 後は地元の漁業協同組合の方々の協力ですね。最初は、海上に浮かんでいる風力発電機が倒れたりして、漁業に影響が起きないかどうかなどと、懐疑的な目で見ている方もいたと思います。そうした不安については、たとえば台風が襲来した時には、わが社の技術者が現地に行って、地元に張り付いてチェックし、地元の方々とある意味で不安を共有しながら、安全性を確認するなどの作業を重ねました。そうした取り組みを丁寧に、丁寧に、これまでやってきました。

 

――洋上風力発電の場合、漁業権以外にも海域占用などの問題がありますね。

 

 山嵜氏:確かに漁業権のほか、海域占用などが絡みます。漁業権関係は、先ほど説明したように地元の漁協の理解が進みました。海域占用の許可は県の担当です。その辺の法制度というか、海のうえでの法制度はまだきちっと確立していないと思います。

 

 今は長崎県の条例のもとで、海域に風車を浮かべていいということになっていますが、法律ではなく、県の条例が根拠です。ただ、条例は県によって一律ではないし、多くが風力発電所設置の許可を得るというよりも、利用する海域に対していくらの占用料を払うか、といった条例になっています。また占用できる期間も条例によっては短かい場合もあります。今国会でこの辺の法整備がなされる予定と聞いていますが、法整備が必要です。

 

2017年サステナブルファイナンス大賞の表彰状を掲げる戸田建設専務執行役員の鞠谷祐士氏(左)
2017年サステナブルファイナンス大賞の表彰状を掲げる戸田建設専務執行役員の鞠谷祐士氏(左)

 

ーー浮体式ということですが、非常にユニークな構造ですね。

 

 松井氏:浮体の縦長のスパーの上部は衝撃に強い鋼を、下部は水圧に強いコンクリートを併用したハイブリッド型とすることで、構造的にも安定しコストダウンも実現しました。それと、ローター(羽根)の回転面を風下にしたダウンウィンドウ型にしたことで、浮体が風により傾いた際により風を受ける面積が広くなること、風見鶏のように、ローターが自然に風を受け流すため、効率性・安定性が増しました。

 

――洋上風力の開発費用をグリーンボンドで調達しようと考えたのはいつごろからですか。

 

 山嵜氏:一年ぐらい前でしたね。建設資金がかかるのは当然わかっていました。通常の銀行からのプロジェクトファイナンスでの調達は、この時点ではかなり難しいと思っていました。これから2メガワット級の風車を8基と、5メガワット級を1基作ろうと思っていますが、現在、五島市沖にあるものを一部改良する予定なので大きな違いは無いものの全く同じ物ではありません。そうなると、世界で一つしかないようなものを作ることになるので、それに対して銀行がプロジェクトファイナンスで資金をつけてくれるかというと、なかなか難しいのではという思いがありました。

 

 そのため、最初は自己資金でやるしかない、と考えていました。しかし、それを外部から使途が分かり易い形で調達できれば、それに越したことはありません。その時に、グリーンボンドの話を聞きました。グリーンボンドを扱っている欧米の人から、「なぜ日本ではグリーンボンドがないのか、不思議だ」と言われたのです。その場に同席していた事業会社の方々も、グリーンボンドについては、聞いたことはあるが、よくわからないとのリアクションでした。1年前は、国内ではそれほど話題になっていなかったのです。

 

山嵜氏
山嵜俊博氏

 

 そこでグリーンボンドについていろいろ研究して、取り組むようになりました。本当に安い調達ができるかについて少し不安がありました。しかし結果的には、わが社の普通の社債発行だったら、昨年12月の発行時点で金利は0.3%を超えたと思いますが、グリーンボンドの場合0.27%で出せました。これはまさにグリーンボンドをやった成果だったと思います。ESG評価会社である Sustainalyticsのセカンドオピニオンを取得し、格付投資情報センター(R&I)の「グリーンボンドアセスメント」で最上位評価の「GA1」を取得しました。事業会社による本業を目的とした最初のグリーンボンドになることから、リーディングケースに相応しいものにしたいという思いもあり、国内募集ではありましたが、国際基準に準拠した形での発行を行いました。

 

――計画中の9基の風車はこの資金を充当するのですか。

 

 山嵜氏:今、五島市沖にあるのは環境省の実証事業で作られた実証機です。現在は五島市に譲渡され、当社が設立した特別目的会社(SPC)で運転しています。これから作る風車に全体でいくらかかるのかは、検討中です。単品生産で作った実証機の原価はあり、これから複数の風車を製造するので、ある程度、量産効果でコストは下がっていくはずですが、今回調達した100億円だけでは全体計画には足りません。しかし逆に言うと、100億円分は責任をもって、洋上風力開発に使えるということです。

 

――グリーンボンドの投資家は従来の社債投資家と違いますか。

 

 山嵜氏:当社のことを知っていただいている方々だけではなく、まったく知らない方々が、「洋上風力発電の案件だから投資します」と言って債券を購入してくれたことがうれしかったですね。

 

――個人向けにグリーンボンドを売るということは考えていますか。

 

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 山嵜氏:将来はあり得るとは思います。今回は、1ロットが1億円という単位で、機関投資家、法人向けでした。しかし、日本でも個人国債があるように、個人向けに、そして再生可能エネルギー開発を応援してくれるような方々に持っていただければ、さらに裾野は広がると思います。ただ、小口にすると調達のコストは逆に増えてしまうかもしれません。その辺を考える必要はあるかと思います。

 

――開発されたハイブリッドスパー型の浮体は、海外にも展開できるのではないですか。

 

 山嵜氏:海外展開も考えたいと思っています。早く国内で普及拡大し、海外にも展開を考えるべきだと思っています。ただ、まだ五島市沖でも1本だけが浮んでいる段階です。早くウインドファームとして稼働させ、トラックレコード(実績)を世に示したいですね。

 

 松井氏:そうした実績ができると、そこにプロジェクトファイナンスなどで資金を引っ張ってくることができます。グリーンプロジェクトということです。しかし現状は、まだそこまでは金融機関も動いてくれそうにはありません。まずはトラックレコードを作ってくれという段階です。でも、現在の計画が着実に進んでいる様子を見てだいぶ「見えてきたな」と、金融関係の方々も感じておられるようですね。

 

松井一氏
松井一氏

 

  山嵜氏:浮体式は移動ができます。現在の実証機も、最初は福江島の北東に位置する椛島の沖合1kmに設置しました。それを20km離れた福江島の崎山沖に、海底に固定していたアンカーをあげて、船で引っ張ってきました。羽根を付けたまま移動させることができるので、日本中のどこにでも持っていけるのです。

 

――他の再エネ事業についての取り組みはどうですか。

 

 山嵜氏:太陽光発電については施工だけでなく、共同出資の会社を持っています。ただ、大規模なものはまだありません。バイオマス発電は燃料となる木材、チップの安定確保に目途がつく案件は取り組みたいですね。ごみ発電の場合は、産業廃棄物処理業者の免許と、事業の安定性も課題です。多様にみています。

 

                     (聞き手は 藤井良広)

http://www.toda.co.jp/

http://www.toda.co.jp/ir/pdf/ir20171208.pdf