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米諜報・情報機関のトップを結集した上院情報委員会ヒアリング。「世界の脅威」の一つに、気候変動も明記。トランプ政権の温暖化軽視姿勢と一線を画する(RIEF)

2018-02-20 07:58:50

CIA2キャプチャ

 

 米上院情報委員会(Senate Intelligence Committee)は、CIAなど米諜報・情報機関のトップを集めた年次ヒアリングを実施した。出席した各諜報機関代表は、気候変動とその他の環境問題の動きは、2018年を通じて、経済・社会的不満を高め、激動化する可能性があると警告した。

 

 恒例のヒアリングは、「世界の脅威評価(Worldwide Threat Assessment)」報告書を提出したうえで、各諜報機関のトップが上院議員の質疑に応じた。出席したのは、上記写真の左から、FBI長官のChristopher Wray氏、 CIA長官 Mike Pompeo氏、国家情報長官Dan Coats氏、国防情報局長官 Robert Ashley氏、 国家安全保障局長官Michael Rogers氏、国家地域空間情報局長官Robert Cardillo氏の各氏。

 

 報告書では、世界の脅威として、サイバー攻撃、大量破壊兵器の拡散、テロリズム、国境をまたぐ組織犯罪などを列挙し、その中の一つに、「環境と気候変動」を取り上げた。トランプ政権は、パリ協定からの離脱を表明するなど、温暖化対策への対応に消極的な姿勢を明確にしており、昨年12月の国家安全保障政策、今年1月の国家防衛戦略のいずれにおいても、それまで毎年、明記していた気候変動の脅威を削除するなどの姿勢をとっている。

 

 しかし、今回の報告書では、気候変動について「直ちに壊滅的な出来事が発生する兆候はないようだが、すでにその影響は見えている」と明確に指摘している。通常、同報告は事実関係を簡潔かつ明確に報告する形式で、メディアもほとんど注目しない形式的なヒアリングの場とみなされてきた。

 

 ところが今回は、これまで大統領をはじめとする政権中枢の面々が、地球温暖化について、公然と疑問を呈する言動をとってきた中で、米国の諜報機関が共同報告の形で、従来通りに気候変動を脅威として位置づけたことで、にわかに注目を集めた。

 

 提出された報告書に盛り込まれた意見は、昨年、省庁間のピアレビューに基づく「国家気候評価」報告書の内容を評価・反映している。また引用データ等は、米宇宙航空局(NASA)や米海洋大気局(NOAA)などの主要な科学機関の報告データと整合性を持つものが選ばれるなど、トランプ政権の温暖化懐疑論者と明確に一線を画する内容だった。

 

CIA1キャプチャ

 

 たとえば、「温暖化による異常気象現象は、潜在的により大きな影響を社会に及ぼし、自然災害リスクの増大や、人々の衝突、水・食料不足、難民増大、労働者不足、価格変動、電力不足などのリスクを高める要因になりかねない」と指摘している。

 

 また、「森林火災の増大や農業廃棄物の焼却、都市化の進展、急速な産業化などによる大気汚染の悪化に対して、人々の不快感が高まり、すでに中国や、インド、イラン等で起きているように、当局に対する抗議を高める可能性がある」と、気候変動の激化が治安問題に発展する可能性にも言及している。

 

 さらに、「汚染の蔓延、温暖化、持続可能でない漁業、海洋の酸性化などの環境要因で促進される生物多様性や生物種の絶滅の加速は、人類の生存システムをサポートする健全なエコシステムを危機にさらす」とも述べている。

 

 CIAなどの諜報機関の報告書が、そのまま議会に提出された背景には、ロシア疑惑などでCIA、FBIなどと無用な摩擦を起こしたくないとの判断が、トランプ政権側にあったのかもしれない。いずれにしても、気候変動が世界の脅威であることは、米諜報・情報機関によって改めて確認された形である。

https://www.intelligence.senate.gov/sites/default/files/documents/os-dcoats-021318.PDF