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外務省の有識者会議、石炭火力廃止に向けたロードマップ制定、「再生可能エネルギー外交」の推進、などの提言を、河野外務相に提出(RIEF)

2018-02-20 11:05:20

gaimusho1キャプチャ

 

 河野太郎外務相が主導して年初に設立された外務省の「気候変動に関する有識者会合」は19日、エネルギーに関する提言をまとめ、河野外相に提出した。焦点の石炭火力発電所について「日本が石炭火力発電の廃止を覚悟し、段階的廃止のロードマップを示す」と明言し、途上国支援もエネルギー効率化と再生可能エネルギー開発を中心とする「再生可能エネルギー外交」の推進を掲げた。

 

写真は、提言書を河野外相に手渡す末吉竹二郎有識者会議座長)

 

 これまで石炭火力発電については経産省が推進の立場で、海外でも国際協力銀行(JBIC)資金を投入してインドネシアなどでの建設を推進している。こうした政策に対して環境省は明確な反対の姿勢を示せず、再エネ政策も経産省が握るなど、旧来の役所間の権限調整の域を脱していない。こうしたことから有識者は「世界がエネルギー転換に向かう中で、日本の立ち遅れが顕著」と危機感を示した。

 

 提言では、脱炭素化、再エネ促進の大きな流れが起きている世界の潮流に対応していくため、「気候変動対策で世界を先導する新しいエネルギーが移行の推進」を掲げた。国内の旧来型の調整に終始している経産・環境の両省の対応とは別に、「再エネ外交」を展開すべきという宣言だ。

 

 特に、世界的に課題となっている石炭火力については、JBIC等を使った輸出への公的支援は速やかな停止をめざす、とした。さらに外交にとどまらず、日本国内の石炭火力廃止を覚悟し「国内の石炭火力の段階的廃止のロードマップを示す」よう、国内の政策当局に対する注文も加えた。省エネについては日本企業は国際的にも進んでいるが、その現状に甘んじることなく、「これまで以上に高い目標の設定が必要」と求めた。

 

有識者会議は、末吉竹二郎・国連環境計画(UNEP)特別顧問を座長として、気候変動・環境等の専門家を集めて、1月に立ち上げ、2か月弱の間に8回の会合を重ねた。提言の主な内容は以下の通り。

 

提言:気候変動対策で世界を先導する新しいエネルギー外交の推進を

 

1.再生可能エネルギー外交を推進する

 

1)気候変動対策で世界に貢献し、日本の経済・社会の発展につなげる

 気候変動は地球規模の危機であり、人類の存続を左右する。この課題に真摯に立ち向かうことを抜き に、日本の国家としての品格を保つことはできない。また気候変動は地域紛争の一因ともなり、安全保障 上のリスク拡大を招く。

 

 今日の日本は、パリ協定で合意された2℃目標達成に向け、主導的な役割を果たしているとは言い難い。 この状況から脱却するために、脱炭素社会に向かう世界で急速に役割が高まっている再生可能エネルギー を、日本が内外で強力に推進することにより、国家としての信頼を高める「再生可能エネルギー外交」を 展開する。

 

 「再エネ外交」は、化石燃料資源の確保を中心とした従来のエネルギー外交を、自然のエネルギー資源の活用により、世界とともに持続可能な未来を希求する外交へと発展させる。気候変動の危機回避の取り組みは、脱炭素ビジネスの成長機会を生み出し、日本外交が この課題で世界をリードすることは、新たな経済成長への道である。

 

2)持続可能なエネルギーで途上国の未来に貢献する

 世界で未電化地域に住む12億人の人々へ電力アクセスを提供することは、国連持続可能な開発のための 2030年アジェンダ(SDGs)の重要課題。広域的な電力系統の整備がなくても分散型電源として電 力を提供できる再エネは、未電化地域への最も迅速な解決策である。

 

 途上国の経済発展にともなうエネルギー需要の拡大への対応として、日本の有する優れたエネルギー効 率化技術の活用とともに、途上国の再エネ資源を活用する技術の供与や投資を促進する。 持続可能なエネルギー開発の支援が、途上国の未来への真の貢献であり、日本は、途上国の新し い経済を共に築いていくパートナーとなる。

 

3)多様な非国家アクターの国際舞台での活動を支援し、協働する

 

 脱炭素社会をめざす世界各地で、企業や自治体、NGOなど非国家アクターの役割が高まっている。非国 家アクターの活躍が、パリ協定の実施を支え、加速している。率先して脱炭素化に取り組む非国家アクターを支援し、これらの世界でのプレゼンスを高めることも 日本外交の新たな役割。国内の先駆的な企業や自治体、NGOとネットワークを形成し、市民 社会と連携して、世界に向けた発信強化を進める。

 

2.エネルギー転換の実現へ、日本の道筋を確立する

 

1)エネルギー効率化と再エネを脱炭素化の中心におく 脱炭素社会への転換は、経済、地域のあり方の根幹に関わるものであり、速やかな実現には強い政治的意思の発揮が必要

 

 脱炭素化に向け、省エネと再エネが中心的な役割を果たすこと は、今や国際的な共通認識。日本でもこれまで以上に高い目標の設定が必要。野心的 な目標値は、企業と地域への明確なメッセージとなり、省エネ技術、再エネ拡大の長期的で安定的な市場の形成、公正な競争を成立させる土壌の醸成、規模拡大によるコスト低下を可能にする。

 

2)パリ協定と調和した脱炭素社会へ

 

 石炭火力発電は最新のものでも、パリ協定の2℃目標と整合しない。日本は石炭火力発電の廃止を覚悟し、その基本姿勢を世界に公表していく。国内の石炭火力の段階的廃止のロードマップを示すとともに、途上国への支援はエネルギー効率化と再生可能エネルギー開発を中心としていく。石炭火力輸出への公的支援は速やかな停止をめざす。

 

3)「原発依存度を可能な限り低減する」、この原点から出発する

 

 東日本大震災後に初めて策定された現行のエネルギー基本計画は、その冒頭に「震災前に描いてきたエネルギー戦略は白紙から見直し、原発依存度を可能な限り低減する。ここが、エネルギー政策を再構築するための出発点であることは言を俟たない」と明記している。原子力発電が経済競争力を失い、再生可能エネルギーが価格競争力を高めている世界の現状を認識し、 原発への依存度を限りなく低減していく。

 

3.脱炭素社会の実現をリードし、新たな経済システムを構築する

 

1)日本の潜在力を引き出し、世界の最前線へ

 

 日本企業は、エネルギー効率化、電気自動車などの次世代自動車、蓄電池などのストレージ技術、次世 代太陽光パネルや洋上風力発電など、さまざまな高い脱炭素化技術を有す。政府がエネルギー転換を実現する新たなビジョンを示すことで、日本企業が有する技術力を活かす新たな市場が国内に生まれ、世界市場でさらに大きな役割を果たす足掛かりとなる。

 

 企業が高効率のエネルギーシステムや再エネを選択・利用しやすい仕組みを構築するともに、国際的な評価基準の策定をリードすることも必要。脱炭素化のルール作りに主体的に参加してこそ、日本経済が今後とも世界のバリューチェーンの中に確かな位置を占め続けることできる。

 

2)脱炭素化へ責任ある投融資の推進

 

 脱炭素化に向けてグリーン金融の役割が欠かせない。エネルギー政策に金融を含め る統合的アプローチが進んでいる。石炭など化石燃料への新規出資の停止や投資引き揚げ(ダイベストメ ント)だけではなく、内外におけるエネルギー効率化、再エネ分野への長期的視点に立っ た責任ある投融資や保険を普及し促進する政策が必要。ESG投資が進む中で、国内外のバリューチェーン全体の脱炭素化への投資が促進されるよ う、「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」などが示した気候変動のリスクと機会に関わる 財務情報開示の普及を促進する。

 

 政府開発援助における気候変動分野への資金拡大、緑の気候基金(GCF)などの気候変動関連 の国際的な資金メカニズムの活用促進を途上国とともに進めることが重要である。

 

3)地域分散型エネルギーモデルで世界に貢献する

 

 地域分散型の再生可能エネルギーは、広域的なエネルギーインフラが遮断されても、電力や熱を供給す ることが可能で、災害に強い地域づくりに寄与する。今後、気候変動が引き起こす自然災害の頻発が 予想される中で、地域分散型再生可能エネルギーの重要性はますます高まっていく。

 

 これらを促進するために、既存制度の見直しや、新たな法的枠組みの構築、人材育成やノウハウ の共有といった支援を進めていく。このような取り組みを世界的に普及させるため、各国と連携し、 地域分散型再生可能エネルギーの導入支援などの国際協力を推進していく。

http://www.mofa.go.jp/mofaj/files/000335203.pdf