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北極圏のツンドラ域で「夏の温暖化」進行。過去15年間で、夏だけ平均2℃上昇。永久凍土の融解加速で、温暖化さらに加速。海洋研究開発機構の研究グループが解明(RIEF)

2018-03-12 11:15:21

tundora1キャプチャ

 国立研究開発法人・海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究グループは、北極圏陸域のツンドラ域の夏の気温が、2002~16年の間に約2度上昇したていたとする分析結果をまとめた。同地域の年平均気温は温暖化の兆候はないことから、北極海周辺部の広い範囲で「夏の温暖化」が進行している、ことが明らかになった。また、温暖化に伴ってツンドラ域からの蒸発散量が増え、同期間に水の高さで2cm(約1,106億㌧)の乾燥化が進行していることもわかった。

 

 調査はJAMSTECの北極環境変動総合研究センターの鈴木和良主任技術研究員らがまとめた。ツンドラ域は北極圏陸域の約8割の面積を占める。ロシアや米国、カナダに及ぶツンドラ域(約550万㎢)の温度を、15年間の衛星観測データと陸面再解析データの統計解析を行って分析した。オンライン学術誌「Remote Sensing」に掲載された。

 

 それによると、2002年から2016年までの過去15年間の夏季平均気温(6月〜8月)は、2002年が10℃弱だったが、16年は11℃強になった。この15年間の年平均気温はマイナス8℃程度で変わらず、温暖化の兆候はみられなかった。

 

 「夏の温暖化」が起きている理由は、北極海の氷が溶けて海水の熱が陸に伝わりやすくなったり、地面が乾燥してより高温になる条件が整ったためと、みられる。夏季に気温が上昇すると、同地域の永久凍土の融解が加速し、地中に閉じ込められた温室効果ガスを放出させるため、温暖化をさらに加速する可能性があるという。

 

ツンドラ域の主要河川の観測データ
ツンドラ域の主要河川の観測データ

 

 また、永久凍土の被覆率が異なる流域の水循環と陸水貯留量の関係を分析した結果、被覆率が高い流域では、年間流出量と陸水貯留量は9月から翌年5月にかけて特に高い相関が見られたものの、2割程度の流域では、そうした相関は見られなかった。これは永久凍土が減少すると、「底の空いたバケツ」のように、溶けた水が地下水の流れや河川流出増加を加速していると可能性があるとしている。

 

 これらの観測結果から、温暖化の影響で永久凍土の融解が進むことで、水循環や温暖化の加速がさらに進行する可能性が高まることが判明した。温暖化の加速で永久凍土が減少すると、北極海に流入する淡水が増え、窒素や鉄等の栄養塩流入も増加することで生態系への影響が増える懸念もある。

 

 ツンドラ域に属す北東ユーラシア地域は、日本の西側(風上)に位置するため、そこでの温暖化や水循環の変化は日本の気候にも影響を及ぼすことが予想される、としている。

http://www.jamstec.go.jp/j/about/press_release/20180307_2/