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米国の新国務長官候補のマイク・ポンペオ氏は、筋金入りの「温暖化懐疑論者」。トランプ政権の温暖化政策、ますますパリ協定から離れていく懸念(RIEF)

2018-03-16 01:05:58

ponperoキャプチャ

 

 トランプ米大統領が、国務長官だったレックス・ティラーソン氏を解任し、後任に米中央情報局(CIA)長官のマイク・ポンペオ(Mike Pompeo)氏を充てると発表したことで、米国の環境団体などには、嫌悪感が広がっている。ポンペオ氏は名うての「温暖化懐疑論者」でもあり、その背後に「微妙な影」がチラつくためだ。

 

写真は、解任されたティラーソン前国務長官(左)と、指名を受けたポンペオ国務長官候補)(右))

 

 ティラーソン氏は米メジャーのエクソン・モービルのCEOから国務長官に抜擢された。化石燃料産業の代表格の企業トップだけに、米国の温暖化政策を後退させるとみられてきた。実際、ティラーソン氏は、国務省の人員削減に蛮勇を振るい、温暖化問題の交渉を担当する気候大使のポストの廃止や気候交渉スタッフの削減を推進した。

 

 ただ、その一方で、パリ協定からの離脱を目指すトランプ大統領に対しては、国際交渉のテーブルから離れるべきではない、と強硬論に反対していたとされる。

 

 これに対してポンペオ氏は、トランプ氏が就任直後の2016年11月、CIA長官への就任指名を受け、その上院での公聴会で、「パリ協定は米国にとってコストの高い重荷」と批判した。元々、ティーパーティー運動から下院議員に当選、温暖化問題に批判的なコーク兄弟の支援を受けてきた筋金入りの「温暖化懐疑論者」なのだ。

 

 CIA長官としては温暖化問題に関わる立場ではなかったため、気候変動問題で目立った発言はしていない。しかし、基本的にはパリ協定からの離脱を決め、温暖化対策での国際協力費用の削減を宣言したトランプ大統領と、極めて歩調が合うといえる。

 

 こうした点を米国の環境NGOらも苦々しく見つめている。米国グリーンピースのNaomi Ages氏は「ティラーソン氏よりもさらに国務省を率いるには悪い人物を採用してしまった。グリーンピースはティラーソン氏が国務長官に指名された時にも反対してきたが、ポンペオ氏は化石燃料産業の『親友』であり、米国政府はそうした人物を長官に起用することはできないし、するべきではないと考えている」と述べている。

 

  一方、温暖化懐疑論者はポンペオ氏の起用を歓迎している。トランプ政権の環境保護庁(EPA)改革の移行担当を努め、懐疑論者として著名なMyron Ebell氏は「彼が長官に就任することは国務省にとって非常に素晴らしいことだ」と絶賛している。同氏は、「トランプ・ポンペオ体制」によって、パリ協定からの離脱だけでなく、国連の気候変動枠組み条約(UNFCCC)そのものからの離脱にも踏み切る、との見通しを立てている。

 

 ポンペオ氏はカンサス州選出の下院議員としての6年間、環境政策に対して毎回反対票を投じてきた。また風力発電への減税措置にも反対を続けてきた。「ポンペオ氏を側面支援してきたコーク兄弟の『影』が、いよいよトランプ政権に近づいてきた」との見方も出ている。ポンペオ氏は、議員として100万㌦以上の献金を、コーク兄弟関連のネットワークから得てきたとされる。

 

Charles(左) とDavidのコーク兄弟
Charles(左) とDavidのコーク兄弟

 コーク兄弟(Koch brothers)とは、Charles とDavidの兄弟を呼ぶ。米国で二番目に大きな個人企業である「America Koch Industries」のオーナーで、共和党の最大の後援者として知られる。現在は、テキサス、アラスカ、ミネソタに大規模な製油所を所有するほか、全米に4000マイルに及ぶパイプライン網を展開している。創業者の父親の時代から反共主義でならし、政治的には共和党のティーパーティーグループを支援、リベラル派との対立を続けてきた。http://rief-jp.org/blog/65665?ctid=33

 

 極端な「小さな政府」と純粋な自由経済を主張し、豊富な資金によって、ティーパーティーなどの自由経済原理主義者を支援している。温暖化問題に関しては懐疑論者ではなく、明確な否定論者である。

 

 コーク兄弟の影響を受けた政治家は、これまでトランプ政権では、石炭生産州のインディアナ州出身である副大統領のペンス氏が知られていた。だが、ポンペオ氏は「コーク兄弟のお抱え」という距離の近さにあり、そのポンペオ氏が国務長官に就任すると、コーク兄弟が実質的にトランプ政権を牛耳るのでは、との憶測も出ている。

 

 ただ、トランプ氏は政権維持のために、石炭産業などの復活だけでなく、鉄鋼・アルミ産業への保護関税を主張する一方で、人気取りのためにインフラ投資拡大策を打ち出すなど、保護主義と財政拡大路線に走り出しつつある。そうなると、「政府は市場に介入するな」というコーク兄弟の基本的な主張と合わなくなる可能性もある。次の展開はどうなるか。

               (藤井良広)