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日本のトルコへの官民協調の原発輸出、安全対策費用の増額で総事業費倍増の5兆円超に。実現に黄色信号。東電福島事故の影響大きく(各紙)

2018-03-16 11:05:21

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  各紙の報道によると、日本の官民が進めてきたトルコへの原子力発電所の輸出総事業費が、当初想定の倍以上の5兆円超に膨らむことがわかった。東京電力福島第一原発事故以後に高まった安全対策費の上昇が要因になっている。トルコ側は事業費の圧縮を求めているが、このままでは目標の2023年の稼働開始は厳しい状況。官民連携のインフラ輸出を推進する安倍政権にとって成長戦略として痛手となりそうだ。

 

 トルコへの原発輸出は2013年に、日本とトルコの政府が合意した。トルコへの原発輸出は安倍晋三首相がエルドアン大統領との直接会談を重ねて受注にこぎ着けた「アベ案件」とされる。

 

 建設場所は黒海沿岸のシノプ。三菱重工業が仏アレバと共同開発する中型加圧水型原子炉(PWR)の新型炉「アトメア1」4基(出力合計は約450万kW)を建設する。トルコ建国100周年を迎える2023年の1号基稼働を目指してきた。事業には伊藤忠商事や仏エンジー、トルコ国営電力会社(EUAS)も参画する。

 

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 両国政府が合意した段階での総事業費見込みは2兆円規模。その後、2011年の東電福島原発事故の後に各国で強化された安全基準を適用した結果、総事業費の試算は5兆円超に膨らんだ。当初は、事業に参画する企業連合の出資で3割、日本の国際協力銀行(JBIC)や民間銀行の融資で7割の建設費用を確保し、売電収入で資金を回収することを想定していたが、事業費増額の影響で、事業全体の見直しは避けられない状況だ。

 

 三菱重工は事業化調査(FS)を今月末までの予定で進めている。日本側は事業費倍増見通しを受けて、トルコ政府の追加支援を求める見込みだが、トルコ側はすでに反発しているとされる。報道によると、トルコ政府関係者は「FSの期間を延長する。具体的な交渉と研究を実施中」と述べ、日本側にコストの圧縮を求める考えを示しているという。

 

 日本は国内の原発再稼働を進める一方で、インフラ輸出の一環として官民協力で原発の国外輸出を推進している。英国では日立製作所が中心となって英中部ウィルファで原発2基の建設計画を推進しているほか、他の国にも「営業」をかけている。

 

 しかし、今回の事態の発覚は、日本で起きた福島事故のような深刻な事故を防ぐための安全対策を各国が重視する中で、日本自身が安全対策費用の増額評価を軽視していたことを、図らずも浮き彫りにした形でもある。トルコだけでなく、すでにベトナムでも、日本が受注していた計画がベトナム側の財政難や住民の反発で撤回に追い込まれている。

 

 原発輸出は企業だけでは事業リスクを抱え切れないことから、政府がJBICなどの公的金融を使って支援している。原発事業を事業戦略の柱に据える三菱重工や日立などの生産・技術力を維持するには新たな建設が必要、との立場だが、国内での再稼働は次第に進んでも、新増設の見通しは全く立っていない。原発のビジネスモデル自体が、経済的にも社会的にも成り立たなくなっていることに、官民ともに早く、気づくべきだろう。