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温暖化で北極の海氷減少の一方、海面での最大波高は年々上昇。北極航路の利用に課題。東大と国立極地研の調査で確認(RIEF)

2018-03-17 13:24:29

hokkyoku1キャプチャ

 

 温暖化の加速で、北極圏の海氷面積が年々縮小し、北極海航路の利用拡大が見込まれているが、海氷減少で開放水面が広がった海域では、風の影響で波が高まることがわかった。波の高さは過去38年間で平均0.8mと1m近くも高まり、最大で約5mの波も観測されている。「温暖化のプラス面」と評価されている北極航路の安全性の確保が課題となってきた。

 

 (海洋地球研究船「みらい」での観測作業の模様)

 

 観測船東京大学大学院の新領域創成科学研究科海洋技術環境学専攻の早稲田卓爾教授のグループと、国立極地研究所の猪上淳准教授らの共同研究でわかった。共同研究では、2016年9月から11月にかけて、海洋研究開発機構の海洋地球研究船「みらい」を使って、北極のボーフォート海、アラスカ・バロー岬沖に漂流型波浪ブイを投入して観測した。

 

 その間、ブイは複数の嵐に遭遇し、9月に一度、そして、10月に2度、4mを超える波高を計測した。北極低気圧が通過した時には、5m近い波の高さ(有義波高)を記録したという。これらの観測データを、ヨーロッパ中期予報センターが推定した過去38年間の波データと検証し、それを元に北極圏のラプテフ海、東シベリア海、チュクチ海、そしてボーフォート海の各海域での波高最大値を解析した。

 

 解析では、海氷の融解が激しい8月、海氷面積が最も小さい9月、そして結氷が開始する10月の3期間について、それぞれの海域で起こりうる最大波高の期待値を推定した。それによると、年ごとの値はばらつくものの、38年間にわたり2.3mから3.1mへと明瞭に波高が上昇していることが判った。

 

北極海に浮かべた観測用のブイ
   北極海に浮かべた観測用のブイ

 

 この上昇は、同じ海域における最大風速の期待値が、12.0m/sから14.2m/sに上昇していたことと関連があることがわかった。上昇傾向は特に10月に大きくなる。波の上昇傾向は一般的に開放水面の増大と関連するが、今回の観測によって、それに加えて、風が氷の上ではなく開放水面で吹く確率が高くなることで、波高が増大することもわかった。開放水面における最大風速の増大が、波浪に、より強い影響を与えてるという。

 

 北極は数十年前までは通年、氷で覆われ、波浪が存在しなかった。海氷が溶けることで、新たに波が毎年発生し、波浪が高まっているわけだ。北極航路の利用では、砕氷船ではない一般商船による航行を想定しているため、波浪は航行する船舶にとって抵抗となるほか、水しぶきが凍って、船に着氷する課題もある。今回の研究でそうした波の影響が確認されたわけで、今後の航路開設の際、安全対策に盛り込む必要がある。

 


 今回の研究は北極域研究推進プロジェクト(ArCS)の一環で、成果は2018年3月14日付けで、英国科学誌Scientific Reportsにオンライン掲載された。2018年には結氷期(11月)における波浪場の計測を「みらい」の研究航海(首席研究者猪上准教授)で行う予定。

http://www.nipr.ac.jp/info/notice/20180315-2.html