HOME8.温暖化・気候変動 |神戸製鋼の神戸市での大型石炭火力発電計画。環境相は「再検討」意見を出したが、国全体で削減目標達成の道筋を示すのが先決、と環境NGOらが批判(RIEF) |

神戸製鋼の神戸市での大型石炭火力発電計画。環境相は「再検討」意見を出したが、国全体で削減目標達成の道筋を示すのが先決、と環境NGOらが批判(RIEF)

2018-03-27 11:29:19

kobelco2ecde5e66ac95650aca5b3dea6e6db4f1

 

   データ改ざん事件で、日本の製造業の評判を落とした神戸製鋼所が、住民からの評判も落とす形となっている案件が、神戸市内で計画中の大型の石炭火力発電所だ。都市の住環境・住民無視の事業展開に、環境省も「事業再検討」を求める意見書を出した。だが環境NGOの気候ネットワーク(KIKO)は、本来は国全体でCO2削減の道筋を明確することが先決として、環境・経産両省の安易な調整作業を批判している。

 (写真は、神戸市の市街地のど真ん中に位置する神戸製鋼の石炭火力建設計画地。元神戸製鋼神戸製鉄所の跡地)

 

 KIKOが問題視するのは、神戸製鋼所が計画する「神戸製鉄所火力発電所(仮称)」。神戸製鋼の計画では、同社の高炉設備を休止した跡地に、65万kWの発電能力を持つ石炭火力を2基建設し、2021年から稼働する方針。発電所は住宅地から 400m の至近にあり、既存のものも含めると、合計 270 万 kW の石炭火力が都心のど真ん中で汚染物質を排出することになる。

 

 同発電所の石炭の使用量は年間317万㌧に及び、CO2排出量は新設の2基だけで約700万㌧、既設分を含めると約1400万㌧(一般家庭430万世帯分)で、神戸市全体のCO2排出量(約1200万㌧)を上回る。http://rief-jp.org/ct4/71654

 

 kobelco1キャプチャ

 

 同発電所の建設は環境アセスメント法の対象となることから、環境省は23日、同事業の「環境影響評価準備書」について、大臣名で「石炭火力発電からのCO2排出削減は喫緊の課題である」と指摘した。その上で、「CO2排出削減の取組への対応の道筋が描けない場合には事業実施を再検討することを含めた検討」が重要と指摘した。

 

 これに対して、KIKOは、環境省の指摘は「その通り」とする一方で、同省の指摘内容について、「神戸製鋼に、総論・各論にわたる多々の措置を求めているが、追加的なCO2排出量が年間692万トンにも及ぶ本事業の実施を前提とする措置は、国全体でCO2排出削減の道筋を明確にした後に、より厳格な措置が検討されるべきものである」と述べている。http://www.kikonet.org/info/press-release/2018-03-26/EIA-KOBELCO

 

 国は2030年の削減目標をパリ協定で約束しているが、その目標を達成するための規制などについては明確にしていない。カーボンプライシングの導入も決まっていない。国が目標に合致した削減の道筋を各排出主体に示していないにもかかわらず、個々のプロジェクトには厳しい削減対策を求める姿へ疑問符を示した形だ。

 

 環境アセスメント法に基づく手続きの中で、環境省が新設の石炭火力発電所建設計画に、強いトーンで是正を求めるケースはこれまでもあった。しかし、過去、秋田港などの合計5つの石炭火力の新増設計画に環境省が『是認できない』などと強い表現で意見書を出したケースでも、実際に計画が撤回されたのは関西電力などの千葉県市原市の計画だけ。

 

 メディアでは、アセスメント手続きにおいて、事前に経済産業省と環境省が役割分担し、表現をすり合わせて、意見書の有名無実化が進んでいる、との指摘もされている。https://www.nikkei.com/paper/article/?b=20180113&ng=DGKKZO25623510S8A110C1EA4000

 

 本来、国がやるべきことは、KIKOが指摘するように、国全体の目標を達成するための各排出主体ごとの削減規制を定め、その規制に個々のプロジェクトが適合しているかどうか、さらに事業主体全体での適合状況等を判断することである。加えて、CO2の排出量さえ枠の中に抑え込めばいい、というのではない。今回のように都市部での計画の場合、立地した周辺環境への影響、人体への健康影響等、都市計画や公衆衛生等との整合性にも配慮して妥当性を量るべきだろう。

 

 同事業計画に対して意見表明された地域住民等の関係者からも1173件の意見が提出されたが、その大半は、事業に反対だったという。そもそも、世間を騒がせた神戸製鋼のデータ改ざん問題によって、同社に対する社会的信頼は低下しており、事業主体としての責任への疑問が示されても何ら不思議でない状況が、今も、続いていることも忘れてはならない。

 

 KIKOは同事業の問題点として①温暖化対策の説明が非常に勝手な解釈である②事業区域の周辺は、過去に深刻な大気汚染による公害が発生した地域であり、回復の途上にあるうえに、現在、地域住民からは兵庫県公害審査会へ、公害調停が申し立てられている③事業者はデータ改ざん問題があり、住民の不信感を全く払拭しておらず、むしろ疑念は深まるばかりであるーーの3点を指摘。事業中止を求めている。

http://www.kikonet.org/wp/wp-content/uploads/2018/03/180326press-release-EIA-KOBELCO.pdf