HOME |TCFD勧告の気候リスク情報開示のグローバル企業の対応。約8割は認識。取り組みは1割強。日本企業は目標設定、低炭素商品開発等で優位だがマテリアリティ認識で低位。CDP・CDSBの共同調査(RIEF) |

TCFD勧告の気候リスク情報開示のグローバル企業の対応。約8割は認識。取り組みは1割強。日本企業は目標設定、低炭素商品開発等で優位だがマテリアリティ認識で低位。CDP・CDSBの共同調査(RIEF)

2018-03-27 19:25:59

CDP4キャプチャ

 

 気候財務関連情報開示タスクフォース(TCFD)の勧告に基づく企業の情報開示状況をまとめた報告書が公表された。それによると、対象となったグローバル企業のうち、82%は気候リスク等を取締役会で協議している一方で、そうした取り組みにインセンティブを付与している企業はまだ12%しかないことがわかった。国別では、企業の排出目標設定率で日本は94%の高率で一位となった。ただ、気候リスクをマテリアリティ〔重要性)要因として開示する企業は、中国企業よりも少なかった。

 

 報告は、英非営利団体のCDPと、同じく英NGOのCDSB(気候情報開示標準委員会)が、CDPに基づき情報開示を行っている世界14カ国の1681社を対象に分析した。国別では、米国501社、日本311社、英国243社、カナダ118社、フランス92社、ドイツ84社、オーストラリア75社、韓国62社など。対象産業セクターはエネルギー、金融、産業等11セクターに及ぶ。

 TCFDの勧告は、気候変動のリスクとオポチュニティを、企業の「ガバナンス」「戦略」「リスクマネジメント」「指標と目標」の4つの領域で情報開示を進めることを求める内容だ。CDPのアンケートに対して、全体の82%の企業は経営レベル(取締役会)で同リスク等を評価していると答えた。だが、そうした評価に伴うインセンティブ整備が12%に限られているということは、ガバナンスに十分、取り込まれていないことを意味する。

 

 企業の対応は国・地域によってかなりの差がある。もっとも経営レベルでの認識が進んでいるのは英国(96%)。ついでドイツと日本(94%)。米国は66%で、中国企業(72%)より低かった。地域別では欧州の英独仏を合わせると90%なのに対して、カナダを含めた北米は68%だった。取締役会へのインセンティブ付与でみると、欧州企業は4社に1社が対応しているのに対して、米企業は25社に1社と低い。日本企業は7社に1社で、平均を少し上回っている。

 

気候リスク・オポチュニィの優先度の開示で出遅れる日本企業
気候リスク・オポチュニィの優先度の開示で出遅れる日本企業

 

 業種別に見ると、もっとも経営レベルでの取り組みが普及しているのが、テレコム産業(94%)。ついで電力等の公益事業体(ユーティリティ)(91%、)不動産、素材(87%)と続く。インセンティブ付与では不動産(20%)が公益事業体(19%)をわずかに上回った。テレコム(18%)は3位。

 

 気候リスクを企業戦略に取り込んでいるとの回答は、92%と大半に上った。ただ、その多くが短期的なリスクとしての評価にとどまっている。企業の戦略にもっとも影響を与えるのが、カーボン税やキャップアンドトレードなどのCO2削減規制の導入だが、これらを戦略上のリスクとしてとらえている企業は過半に満たない45%だった。国別では英国(76%)、フランス(61%)などがカーボン税を政策リスクとしているが、中国(21%)、ドイツ、オーストラリア(各27%)と差が開いた。各国の政策スタンスの違いが表れた形だ。

 

 排出削減に資する低炭素製品やサービスを開発、提供している企業の割合では、日本とフランスが78%でトップ。ついでドイツ(74%)、ブラジル(70%)、韓国(69%)の順。日本は排出量削減あるいは再エネ導入の目標の設定でも94%とトップを占めた。ついで韓国(90%)、フランス(85%)の順。また排出削減活動による削減量の情報開示も71%の日本企業が実施しており、英国、フランス(74%)、ドイツ(73%)を上回った。

 

日本は排出量削減目標や再エネ導入目標が明確な企業が最も多い。
日本は排出量削減目標や再エネ導入目標が明確な企業が最も多い。

 

 これらの分野での日本企業の取り組みが目立つ一方で、気候関連リスクの優先度の評価については、日本企業は他国の企業より大きく見劣りする。優劣評価について平均84%の企業が実施しているとしているのに対して、日本は60%にとどまった。トップの英国は95%と、日本より30ポイントも高い。特に気候リスクのマテリアリティ認識になると、日本企業は6%でしかなく、中国企業の7%よりも低い。平均は18%で、日本企業の気候リスクのマテリアリティ認識は平均の3分の1でしかない。

 

 全体的に、企業における気候情報についての認識は広がっているものの、それに対応した具体的な経営戦略の展開や、適切な情報開示が進んでいるとまではいえないのが調査で浮かんだ実態のようだ。日本企業の場合、長年、低負荷の環境製品・サービスの開発等が国内の消費者市場で評価されてきた点や、目標設定などでは業界が足並みをそろえて対応する利点が顕在化した形だ。その一方で、気候リスクのマテリアリティ認識等が他国企業に比べて相対的に低いのは、自社で明確な優先度をつける経験が少ないことが影響しているとみることもできる。

https://www.cdsb.net/task-force/789/new-research-shows-clear-gap-between-companies-awareness-climate-risks-and-actions