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経産省「エネルギー情勢懇談会(有識者会議)」提言。2050年に向けて「エネルギー転換」を求める。再エネを初めて「主力電源」に位置づけるも、目標比率示せず。原発は維持(RIEF)

2018-04-11 15:42:05

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 経済産業省は10日、省内の有識者会議を開き、2050年に向けた国の長期エネルギー戦略の提言をまとめた。太陽光や風力などの再生可能エネルギーを初めて「主力電源」にすることを明記した。ただ、目標とする具体的な再エネ比率などは提示しなかった。原発については依存度を低減する方針を示す一方、「脱炭素化の選択肢」として「安全性や経済性、機動性に優れた炉の追求」を目指すとした。

 

 報告書は今回の提言を、戦後の復興、石油危機などの転換期と並ぶ、「戦後5回目のエネルギー選択」の時期と位置づけた。さらに「エネルギー技術」という新たな覇権の獲得に向け、国家レベルでの技術革新競争を主導する、と強調している。報告を受けた経済産業省は、今回の提言を、今夏に閣議決定するエネルギー基本計画に反映する方針。エネルギー情勢を客観的に分析し、最適な選択に向けた判断材料を示す新組織も設立する。

 

 提言は、最近のエネルギー分野の変化として、シェール革命によるガス価格の低下とともに、海外を中心に太陽光、風力などの再生可能エネルギー価格の急速な低下等を指摘。一方で、その再エネについては、「火力発電による補完が必要であり、それ単独では脱炭素化を実現することはできない」として、再エネと従来型エネルギーの両方を見据える方向性を基盤としている。

 

 報告書はこうした方向感を基本的に変えないスタンスを弁護するように、大胆なエネルギー転換や脱炭素化の方針を打ち出している欧米諸国についても、「主要国が提示している戦略は総じて、野心的だが、その達成方法はコミットせず」と説明、今回の報告書の方針が決してグローバルな流れからかけ離れていない、と説明をしている。

 

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 その上で、2050年の長期展望に向けたシナリオの設計については、技術の可能性と不確実性、情勢変化の不透明性が付きまとうとして、「各国固有の環境を反映した」エネルギー選択を重視する、と従来の政策スタンスの継続を強調している。

 

 そうしたスタンスの根拠として、再エネ発電の電力システムでの価格推計として、太陽光や風力などの再エネ電力を蓄電システムと併用する場合、kWh当たり95円、水素システムとでは同56円とし、FIT価格が中長期目標の7円程度まで低下しても、それぞれ69円、32円と、現状のLNG 火力価格(12 円/kWh)よりかなり高い、との試算を提示している。

 

 原子力については、「東京電力福島第一原発事故の経験を踏まえて、安全を最優先し、経済的に自立し脱炭素化した再エネの拡大を図る中で、可能な限り原発への依存度を低減するとの方針は堅持する」とした。その一方で、 原発について「実用段階にある脱炭素化の選択肢」と位置づけ、一部に脱原発の動きがあるが、エネルギー情勢の変化に対応して、安全性・経済性・機動性のさらなる向上への取組が始まっている、として、米国の大型原子炉の80 年運転化や小型原子炉開発の動きに言及している。

 

 こうした分析を踏まえた2050年長期シナリオ実現には、エネルギー転換と脱炭素化に向けた「総力戦」での対応が必要、と呼びかけている。なにやら、戦前の日本社会のような言葉だが、報告書は、「(各経済主体が)エネルギーが転換期に来ているという認識、危機感をまずは共有する」必要を強調。そのうえで、脱炭素化に向けた課題解決への挑戦を行う、としている。総力戦の実行のためには、国内政策、エネルギー外交、産業・インフラ、金融の4層の実行シナリオを提案している。

 

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 各紙の報道によると、報告書文中での原発に関する表現に関しては10日の有識者会議で、「地球温暖化への対応を考えると依存度低減は合理的ではない。逃げてはだめだ」(コマツの坂根正弘相談役)との意見の一方で「推進しないほうがいい」(イーズの枝広淳子代表取締役)との異論も出て、明確な方向付けはできなかった、という。

 

 報告書は再エネを評価しつつも、その経済コストの高さを一方で強調する内容になっている。ところが、欧米等では再エネのコスト低下は著しく、BloobergNEFの試算では、今年上半期だけで「均等化発電原価(LCOE)」は前期比18%の低下となっており、「再エネ価格の着実な低下で、新規の石炭・ガス火力発電はコスト面でも競争力を失った」(BNEF)と評価している。http://rief-jp.org/ct4/78283?ctid=72
 日本の再エネビジネスで起きているのは、国内市場での事業コストの高さだ。有識者会議は本来、なぜこうした日本固有の再エネ価格高止まり現象が生じているかを明らかにする役割があった。そうした内外価格差の原因分析をせずに、コスト高が2050年の長期シナリオにまで影響するとの判断でシナリオを描くのは、科学的手法ではないだろう。

 

  原発についても、原発維持に有利な情報は言及しているが、米国市場での停滞状況、英国市場での高コスト問題、安全性の確立に及ばない防御技術レベル、甚大な事故を起こしたにもかかわらず、日本の各原発で起きているヒューマンエラーの多発などへの対応については、一切触れていない。「総力戦」の言葉が、精神論の鼓舞で終始し、国も国民も、大惨敗を喫した過去のイメージだけが、妙に新鮮に浮き上がる。

              (藤井良広)