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米リッチモンド地区連銀、温暖化による夏場の気温上昇の経済効果を分析。「トランプ・シナリオ(BAU)」は米経済成長率を最大25%減速させる可能性(RIEF)

2018-05-10 15:54:42

USA3キャプチャ

 

 米連邦準備銀行の一つリッチモンド地区連銀は、気候変動が米経済に及ぼす影響を分析したレポートを公表した。それによると、温暖化対策を現状よりも後退させた場合、米経済の成長率は気温上昇の影響だけで最大で25%の減退となる。パリ協定と整合する政策展開の場合は、最大10%の減退にとどまる。気温上昇の負の影響が大きい州は、フロリダ、テキサスなど米南部の各州で、いずれも大統領選挙でトランプ氏が勝利した各州に集中する。

 

 レポートは、同連銀のワーキングペーパーとして北カリフォルニア大学のRIccardo Colacito氏、米州開発銀行のBridget Hoffman氏,同連銀のToan Phan氏による共同論文。気象データは米海洋大気局(NOAA)の華氏データ(°F)を使い、1957年~2011年の期間を対象とした。

 

 温暖化による気温上昇の影響は、これまで先進国ではそれほど重視されてこなかった。確かに夏場(7-9月:米基準)の気温は上昇するが、秋(10-12月)には逆に気温が下がることで快適性が増すほか、冬場(1-3月)の暖冬化によって経済活動が活発になると考えられるなど、特定の期間の気温上昇が経済成長を阻害するとの分析はあまりなかった。

 

 今回のレポートでは、夏の気温上昇による経済への負の影響と、秋の快適性回復によるプラスの影響等を相互分析した、その結果、ネットの影響では、1°F(32F=0℃)の気温上昇が州レベルの年間平均成長率を0.15%~0.25%引き下げるとの推計を導いた。気温上昇による成長率への影響が労働生産性に影響を及ぼすためだ。

 

温暖化による気温上昇の産業ごとの影響の度合い
温暖化による気温上昇の産業ごとの影響の度合い

 

 業種的には、夏場の気温上昇による負の影響を受ける産業はサービス、金融、小売、卸売、建設業などで、米国GDPの3分の1以上を占める。反対に気温上昇がプラスに働くのは電力などのユーティリティ部門や鉱業部門。そのうちで影響の大きいユーティリティ部門でもGDPに占める比率は1.8%でしかない。

 

 米経済の平均名目成長率は4%だが、温暖化対策をとらない「BAU(Business As Usual:トランプ・シナリオ)」の場合、1.2%ポイントの減少を招くとしている。これは成長率のほぼ3分の1に相当する影響となる。

 

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 パリ協定が目指す2℃目標達成のための政策を取り続けた場合、米経済の成長率に及ぼす影響は5-10%の減速となる。また、これまでの政策(2100年までに世界の気温上昇を3-3.5℃となる)を継続した場合の米経済の減速率は、倍の10-20%となる。BAUで、高いCO2排出も許容する場合(トランプ・シナリオ)、減速率は12-25%へと拡大する。これらの減速予想はいずれも、夏場の気温上昇の影響だけを考慮したもので、その他の温暖化の影響を踏まえると、米経済、特に州レベルの地域経済への影響はかなりの規模となる。

 

 州ごとに気温上昇の影響度をみると、Florida, Louisiana, Texas, Mississippi, Oklahoma, Alabama, Georgia, South Carolina, Arkansas, and Arizonaの各州での影響が大きく現われるという。これらの州はいずれも、2016年の大統領選挙でトランプ陣営が勝利した州である点が興味深い。温暖化対策の後退を推進する同政権の結果、支持州の経済が負の影響を強く受けるという結果が示されたからだ。

 

 今回の分析は、温暖化対策がうまく機能しないと、経済成長も鈍化することを指摘し、逆に、温暖化の進行を抑制できれば、経済的にもプラスになることを示している。温暖化対策によるCO2排出量の規制等は、経済成長を抑える影響を生み出すが、適正な規制によって温暖化の進行を抑制すれば、経済成長の鈍化もマイルドになる。こうしたことから、同レポートは州レベルでのカーボン税導入などの論拠の一つになりそうだ。 

 

https://www.richmondfed.org/-/media/richmondfedorg/publications/research/working_papers/2018/pdf/wp18-09.pdf