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UNEP FIの新グローバル運営委員に、中国の馬駿氏ら3人。日本の委員は引き続きゼロ。アジアで署名数は最大だが、存在感は希薄(RIEF)

2018-05-23 00:58:04

UNEP2キャプチャ

 

 国連環境計画(UNEP)の金融イニシアティブ(FI)は、グローバル運営委員会(GSC)の新たなメンバーに、中国の馬駿(Ma Jun)氏ら3人を任命した。GSCはUNEP FIの戦略展開を指揮するガバナンスの中心組織で、馬氏は、中国人民銀行(PBoC)のチーフエコノミストとしてグリーンボンド市場の立ち上げをリードしたことで、欧米のサステナビリティファイナンス関係者からは「中国のスーパースター」と評価されている。

 

 馬氏のほか、今回、GSCに加わったのは、米Citi財団のBrandee McHale氏と、UNEP事務局長のErik Solheim氏。McHale氏は、GSCの副議長となる。

 

 3人の新委員の中でも、注目は馬氏である。RIEFのこのWho’s Who欄でもすでに取り上げたことがある。http://rief-jp.org/ct4/71933?ctid=0 同氏は昨年11月にPBoCを退任後、清華大学に移り、現在、同大学の清華金融研究国家機関の金融開発センター局長という肩書を得ている。また、PBoCでも引き続き特別アドバイザーのポストにあり、政府の「グリーンファイナンス委員会(GCF)」の議長でもある。つまり、中国のサステナブルファイナンス政策のキーパーソンなのである。

 

 馬氏がUNEP FIのガバナンスの中心組織に抜擢されたのは、UNEP FIが中国のサステナブルファイナンス市場とその政策を評価していることの表れとみるのが自然だろう。中国ではグリーンボンド市場が成長しているだけでなく、PBoCの指導によって銀行によるグリーンローン市場も拡大している。習近平主席が推進する一帯一路戦略をグリーン戦略と位置付ける役割も馬氏の任務の一つとされる。

 

UNEPFIキャプチャ

 

 石炭中心の従来のエネルギー構造を、再生可能エネルギー等を軸としたグリーン化の方向に転換させるために、金融による後押しを重視する点で、UNEP FIの政策と中国の政策は合致する。馬氏には、その政策を「中国風」ではなく、欧米の金融の常識を踏まえて市場ベースで展開できると期待されている。

 

 馬氏は人民銀行のチーフエコノミストに就任する前は、13年にわたってドイツ銀行の中国担当のチーフエコノミスト、中国・香港戦略チームのヘッドを務めていた。ドイツ銀行の前は、国際通貨基金(IMF)、世界銀行のエコノミストを歴任するなど、欧米の金融調査の最前線を歩んできたことが、大きな強みになっている。

 

 もう一つ、今度の人事のポイントは、馬氏を「中国代表」や「アジア代表」ではなく、「特別指名者(Appointed position)」としている点だ。13人のGSC委員のうち、アジアからは、すでに銀行部門と保険部門にそれぞれオーストラリアの代表が入っている。馬氏はこうした地域代表とは別に、その知見と実績を評価された形の委員といえる。

 

 残念なことには、日本からは「アジア代表」も、「特別指名者」も、いずれも選出されていない。UNEP FIのアジアの署名機関は49機関で、そのうち日本の銀行・保険等は最大の12機関を占め、オーストラリア(10機関)、中国(7機関)、韓国(5機関)を上回る。

 

 GSCの委員ポストは各署名機関による組織運営への貢献という意味もある。「署名はしたが貢献はしない」というのが日本のスタイルとすれば、UNEP FIから得られる成果も限られてしまう。

                      (藤井良広)

 

 

http://www.unepfi.org/about/structure/global-steering-committee/