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世界初のロシアの洋上原子力発電所が「動き出す」。ムルマンスク港に曳航され、核燃料搭載等の準備へ。来夏までに東シベリアのペヴェクで発電開始(RIEF)

2018-05-24 23:51:24

 

   ロシアが開発した世界初の洋上原子力発電所が、先週末、ノルウェー・フィンランドとの国境に近いムルマンスクの港に寄港した。同船は今後、核燃料を搭載して北極圏のチュクチ自治管区のぺヴェクに向かい、2019年夏までに同地で発電を始める予定という。発電した電力は同地域周辺に供給する。ただ、環境団体などは、北極海を航行する際の衝突リスクから、「ニュークリア・タイタニック」と批判している。

 

 ムルマンスクに曳航された洋上原発は、ロシアの原子力企業ロスアトムが所有する「“Akademik Lomonosov(アカデミック・ロモノソフ)号」。18世紀のロシアの科学アカデミー会員だった博学者のミハエル・ロモノーソフに由来している。同船は2010年6月に進水したが、造船所の倒産によってサンクトぺテルブルグ裁判所に差し押さえられていた。手続きの遅れが続き、今般、ようやくペテルブルクの港を出て、ムルマンスクに移った。

 

 同船にはロシア政府が100%株を所有する統一民間原子力体のアトムエネルゴプロムの子会社OKBMアフリカントフが設計した改修型KLT-40S原子炉(発電能力35MW)を2基搭載している。熱出力300MW。原子炉を乗せている船は長さ144m、幅30mほどで、排水量が21,500㌧。乗員69人とされる。

 

ロモノソフ号が曳航される予定のペヴェク
ロモノソフ号が曳航される予定のペヴェク

 

 船には核燃料はまだ搭載されておらず、ムルマンスクで搭載するとみられる。船が向かう東シベリアのぺヴェクは北極海航路の中では最大の街であるが、ソ連崩壊後は寄港する船の数も経済も落ち込んでいる。チュチク自治管区にはビリビノというところに原発がある。だがすでに老朽化していることから、同原発に変わって地域全体に電力を供給するという。

 

 温暖化の加速で北極圏の海氷は急速に縮小している。北極航路はすでに欧州側の西部地域では通年航行が可能になりつつあり、ベーリング海に向かう東側でも夏場の航行期間が延長されている。チュクチ地区の人口約5万人とされ、洋上原発の開発・運営コストを考えると、極めて割高だが、原発による安定した電力を北極海航路の安定確保等に充当することで経済的効果を高める期待もあるようだ。

 

 ロスアトムはこれまでも、核燃料の再注入を3-5年間しなくても運転を継続できる小型の洋上原発を開発し、遠隔地に複数展開する計画を推進してきた。今回のロモノソフ号はそうした計画の一環でもある。同社は「原発はCO2削減にも効果があり、温暖化対策となる」と強調している。

 

 ただ、3-5年も核燃料の再注入をしないことは、逆に原子炉全体の管理面が疎かになるリスクもある。極寒地だけに、原発の不具合や事故が発生した場合、容易に検知、修復等がしづらい可能性も指摘されている。

 

 グリーンピースなどの環境団体は、ロスアトムに対して、国際基準に沿った厳格な安全基準の制定と順守を求めるとともに、ロモノソフ号の操業に伴う北極海を含む周辺環境への影響を、監視し続けることを宣言している。

 

https://www.popularmechanics.com/science/energy/a20105340/russia-akademik-lomonosov-floating-nuclear-plant/