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「シェール革命は、米国以外では起こりにくい」とする報告書を国連貿易開発会議(UNCTAD)が公表。フラッキング規制、水資源確保、投資資金などがネック(RIEF)

2018-05-29 00:37:18

shalegasキャプチャ

 

  米国はシェールガス・油開発でエネルギー輸出国に転じた。「シェール革命」の成功とされる。シェールガスは他の国での埋蔵も確認されているが、国連貿易開発会議(UNCTAD)は、「他の国では米国のようなシェールガス・油の開発は進まない」と展望する報告書を公表した。

 

 シェールガス・油開発は、フラッキング技術を使う点が最大の特徴だ。頁岩(シェール)層に水圧破砕法で人工的な割れ目を作り、ガス・油を取り出す。水の注入とともに多様な化学物質を使うほか、人工的に微弱地震を起こして、坑井の地層の破砕状況を観察するマイクロサイズミック技術なども活用する。

 

 米国では1990年代から活発に開発が進んできた。だが、報告書は、大量の水の使用と地理的条件、水圧破砕法に伴う様々な化学物質規制との関係、さらに事業への投資資金の確保など、こうした米国では乗り越えられたいくつもの課題が、他の国では容易には解決しない可能性を指摘している。

 

 報告書は特に、4つの大きな障害があると指摘している。採掘したガスの貯留問題、採掘に必要な水資源確保、それに地域住民の支持が得られるか、などの点だ。開発のために多数の化学物質を地下に注入することから、それらによる地下水汚染への懸念が地域住民から提起されるためだ。またマイクロサイズミック技術による微小地震の発生は、すでに米国でも問題になっている。

 

shale3キャプチャ

 

 米国では鉱業開発免許を他国に比べて取得し易いメリットもある。さらに米市場では、100年以上もの長期にわたって石油開発を続けてきた経験から、パイプライン業界や掘削事業等の関連業界が膨大なネットワークを形成している点も見逃せない。

 

 金融面のサポートが何よりも大きい。米金融市場はリスクをとって新しい投資事業に資金を供給する個人投資家や、ファンドなどが多数存在する。しかし報告書は、シェール資源の埋蔵が確認されている欧州市場においても、こうした課題を克服して米国市場のようになるのは「まずあり得ないだろう」と分析している。

 

 米国以外に、大規模なシェール資源の存在が確認されている国として、カナダ、中国、アルゼンチンなどを挙げている。これ等の国々が実際に実用的な開発に至るには、欧州同様に複数の課題を一つ一つ克服しなければならず、「可能性は限定的」と指摘している。

 

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 シェールガス・油が、低炭素社会への移行エネルギーとして適正かどうかという点も論点だ。シェールガス擁護者は、シェールガスのCO2排出量は石炭の半分程度になる、と主張する。これに対して、懐疑論者は、掘削に伴って漏洩するメタンは、温暖化効果がCO2よりも高い点を強調する。再生可能でない点は明らかだ。

 

 すでにシェールガス開発への取り組みが行われている英国では、いくつかの成功例がみられる。ただ、地理的条件が米国とは異なることから、多くの潜在的開発可能地においては、周辺人口が多く、各地で住民による反対運動が広がっている。

 

 フランスは欧州のシェールガス資源の30%を保有しているとされる。だが、そのうち95%はパリ周辺で、開発は極めて難しい状況だ。フランス政府は住民の反対を受けて水圧破砕法の使用を禁じる法的措置を講じており、掘削開発は延期されている。

 

 結局、「シェール革命」は米国だけのものというわけだ。ただ、その米国がシェールに伴う課題を克服できているのは、地理的広さと、規制の緩さ、リスクをとる金融の力等が組み合わさった結果で、化学物質による水質汚染、水資源の枯渇、微小地震、採掘後の膨大な放棄跡地の処理などの問題は、薄まってはいるものの、解決されておらず、開発とともに蓄積していくことは間違いない。米国自身も、いずれ「シェールの後始末」に向き合わねばならなくなるようだ。

 

http://unctad.org/en/PublicationsLibrary/suc2017d10_en.pdf