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政府が「もんじゅ」後継に想定する日仏共同研究の高速実証炉「アストリッド」計画。フランス側は「緊急性低い」と大幅縮小の方針。日本の核燃料サイクル計画再見直し必至(各紙)

2018-06-02 23:42:19

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 各紙の報道によると、日本政府が核燃料サイクルの軸としてきた高速増殖原型炉「もんじゅ」廃炉の代替候補として想定している日仏共同研究対象の高速実証炉「ASTRID(アストリッド)」について、フランス側が計画の大幅縮小の方針であることが明らかになった。フランスの規模縮小が決まると、日本の核燃料サイクル計画は根本から見直しを迫られることになる。

 

 (写真は、経産省の作業部会で説明するフランス原子力庁の担当者(前列右端の2人)=1日、東京・霞が関で)

 

 東京新聞が報じた。フランス側のASTRID縮小方針は、1日に経産省で開いた日仏作業部会に出席したフランス側の担当者が明らかにした。日本政府は「もんじゅ」に1兆円超の予算を投じ、1991年に運転を開始したが、成果が出ないどころか、冷却材のナトリウム漏洩など再三の事故を起こし、結果的に2016年12月に廃炉を決めた。

 

 高速増殖炉は、通常の原発で使い終わった使用済核燃料から取り出したプルトニウムを発電の燃料として再利用できることから、核燃料サイクルを実現する軸になるものとして期待されてきた。しかし、「もんじゅ」の実現に失敗したことから、政府は、新たな高速炉開発の柱として、フランスが開発するアストリッドに出資して相乗りする日仏共同研究の形で、「もんじゅ」の代替として活用する方針だった。

 

 核燃料サイクルが実現しないと、原発の稼働によって蓄積する使用済核燃料の処理が滞る。日本は使用済燃料から取り出したプルトニウムをすでに国内外で合計47㌧保有している。高速炉の開発が遠のけば行き場のないプルトニウムがさらに増える。

 

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 作業部会に出席したフランスのCEA担当者は、アストリッドの出力を当初予定の60万kWから10万~20万kWに大幅縮小する方針だと明らかにした。規模縮小の理由として「当初計画より安いコストで必要なデータが得られる」と説明したが、実証炉の必要性自体についても「現在のウラン市場の状況をみると、それほど緊急ではない」との見解を示した。

 

 フランス政府は2019年までにアストリッドの基本設計の検討を進める計画を示している。だが、2020年以降の進め方はまだ決まっていない。日仏の共同計画では、当初の出力規模で数千億~1兆円近くの建設費が想定されていた。だが、規模縮小によって費用がどうなるか、日本の負担がどうなるかも定まっていない。

 

  フランスでは、昨年発足したマクロン政権が、現在、同国の発電量の約7割を占める原発への依存度を2025年までに5割に減らし、再生可能エネルギーを増やす方針を掲げている。再エネ開発費用の低下が続き、原発発電の経済的メリットが薄らいでいることも大きい。このためフランスでの「縮原発」は、与野党を問わず共通政策となっている。

 

 こうした中で、フランス政府は、今後、費用がどれだけ膨らむか分からない核燃料サイクルへの資金拠出をできるだけ減らしたいとの判断のようだ。高速炉実現については、すでに英国、ドイツなどが実現困難として撤退している。複雑な構造であり、技術的な課題が多い。さらに日本の「もんじゅ」の失敗などから、想定費用が膨らむ懸念が高まっていることも、フランスの慎重姿勢に影響したとみることができる。

 

 しかし、日本政府は「もんじゅ」廃炉後も高速炉を開発し、核燃料サイクルを実現したい方針を変えていない。フランスの計画に共同研究の形で参画することで高速実証炉に進むために必要なデータを得ることを目指してきた。今年度予算でもすでに51億円を投じているという。

 

 「一度決めたら、自分の判断での見直しができにくい」というのが日本の政策の伝統的な特徴だが、頼りにしてきたフランスが事実上、高速炉開発を棚上げすることになると、安倍政権が推進している原発再稼働政策自体も、「出口での処理」がない現状を浮き彫りにすることになり、再び、説得力を欠くことになる。

 

 単に「政策の失敗」では済まない面もある。プルトニウムは核兵器もつくれる物質なので各国から「日本が核燃料サイクルに拘るのは原爆製造力を維持したいためではないか」などと、警戒の声が消えない。これに対して日本政府は「プルトニウムは武器ではなく燃料」と言い続けてきたが、膨大な国民の税金を無駄にした挙句、世界の信頼も欠くようになれば、政府の長年のやみくもな原子力政策推進の責任はこの上なく大きい。

 

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201806/CK2018060202000119.html

http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201806/CK2018060202000143.html