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グリーンボンド基準の国際共通化、中国の「クリーンコール」の扱いは依然、進まず。中国の「石炭中心の国内エネルギー事情」の調整は容易でない(RIEF)

2018-06-24 23:33:47

Ma2キャプチャ

 

 グリーンボンドの規格化作業が国際標準化機構(ISO)や、欧州委員会で取り組まれているが、最大の焦点の一つが中国が基準化しているクリーン・コール(高効率の石炭火力発電等)の扱いだ。先ごろ、香港で開いたグリーンボンド原則(GBP)の年次総会では、この問題をめぐり議論が展開されたが、中国側はクリーンコールを対象とする持論を崩さず、調整が容易でないことを示した。

 

 (写真は、6月半ばに香港で開いたGBP年次総会でのパネルの模様)

 

 中国は再生可能エネルギーの普及を強力に推進しているが、国内のエネルギーの約62%は石炭火力でまかなわれいる(2016年)。石炭消費量は2013年をピークに年々減っており、IEA(国際エネルギー機関)の推計では、2040年までに石炭消費量は現状よりも約15%減少するとみられる。

 

 しかし、それでも石炭が主要エネルギー源であり続けることには変わりがない。世界のCO2排出量の28%は中国からの排出で、この比率は今後も大きく変わらないとみられる。CO2削減の必要性を重視する一方で、国内の旺盛なエネルギー需要を支えるには、石炭火力を一気に減らせないというのが中国の国内事情だ。

 

 こうした国のエネルギー政策を踏まえて、2015年12月に、中国の中央銀行の中国人民銀行(PBoC)と国家発展改革委員会(NDRC)が定めたグリーンボンドガイドラインでは、300MW以上の発電容量を持つ超々臨界圧石炭火力発電所(USC)などを「クリーン・コール」と位置づけ、グリーンボンドの資金使途対象としている。

 

 実際にも昨年8月には、中国・天津市のTianjin SDIC Jinneng Electric Power(天津国投津能発電)が、NDRCのガイドラインに基づき、2億人民元(約33億円)、期間1年のグリーンボンドを国内の投資家向けに発行したが、その調達資金の使途は、自らが建設したUSCの建設資金の返済資金だった。http://rief-jp.org/ct4/72608

 

 このため、GBPや、国際的なグリーンボンドの普及活動をしている英Climate Bonds Initiative(CBI)などは、これらのボンドを国際基準上、グリーンボンドとは認めない姿勢をとっている。中国がクリーンコールを「グリーン扱い」することに対しては欧米の年金基金等は引き続き懸念を示しており、本来の中国版グリーンボンドの信頼性を損なっているとの指摘もある。

 

 こうしたことから、PBoCは、欧州の欧州投資銀行(EIB)との間で2017年3月に共同イニシアティブの場を設け、グリーンボンドの規格統一問題を含む協議を続けている。同協議の中国側の実質責任者は、PBoCの特別顧問であり、グリーン金融委員会(CGFC)の議長である馬駿(Ma Jun)氏だ。

 

中国人民銀行の特別アドバイザーの馬駿氏
中国人民銀行の特別アドバイザーの馬駿氏

 

 GBPの年次総会でパネルに出席した馬氏は、この問題の進捗状況を問われ、「(GBPとの)基準のハーモナイゼーションは簡単ではない。すでにEIBとは1年を超える議論を重ねているが、まだ一致していない。中国が勝手に(自分たちに都合のいい)基準を開発しているのではなく、欧州も自分たちの基準をスタンダードだとしている。これら二つの基準の重複部分は、たぶん、共通の基準となる。そうなると、(両市場間の)取引コストも軽減できる」と述べた。

 

 中国がクリーンコールをグリーンボンドの対象にしたまま、GBP等との共通部分を相互認証する案だ。しかし、馬氏自身、こうした案では欧米の投資家に受け入れられないことはわかったうえで、発言したと思われる。中国の国としてのエネルギー政策の優先度は崩せない、というのが馬氏の本音のようだ。

 

 GBPの年次総会という準公式の場で、中国国内の事情を最優先する説明に終始したことは、馬氏が認めるように、調整が容易には進まず、暗礁に乗り上げていることを内外に示したともいえる。一方で、中国はISOにおいてグリーンファイナンスの規格化を提案、このほど作業を開始することで合意を得た。http://rief-jp.org/ct4/80373?ctid=75

 

 中国主導のグリーンファイナンスと、すでに作業が進行中のグリーンボンドの規格化(ISO14030)の重複部分をどう調整するのかも今後の課題だが、中国が当分、クリーンコール維持路線を崩せないとすれば、グリーンボンドの対象にはクリーンコールは含めないが、グリーンファイナンスの対象には含めるという「ややこしい整理」もあり得るかもしれない。

 

 GBPのパネルでは、東南アジア諸国連合(ASEAN)の出席者が、「ASEANでは大きく人が大気汚染で死んでいる。ASEANは構成国が10カ国と多様だが、大気汚染を防ぎ、温暖化を防ぐグリーンプロジェクトに対する資本を市場から獲得するうえで、もしタイのグリーンボンドがベトナムのものと違うという状況になると、コストがかかる。やはり共通の基準が必要だ。われわれが昨年11月に設定したASEAN基準では、化石燃料はグリーンボンドの対象としない」と明確に発言したことが、印象的だった。

 

 国際基準と整合性がとれていない国内ガイドラインとしては、日本の環境省のガイドラインも該当する。ただ、GBP年次総会では「日本問題」は全く触れられなかった。欧米の投資家にとって、旺盛な中国のグリーンボンド市場の成長力と比べ、日本の国内グリーンボンド市場の魅力は、ほとんど感じられないのが実情。残念ながら、「中国と違い、日本には構っていられない」というのが国際的なグリーンボンド関係者に共通する思いのようだ。

                      (藤井良広)

 

https://www.icmagroup.org/events/PastEvents/2018-green-and-social-bond-principles-annual-general-meeting-and-conference/