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欧州の電力業界団体「Eurelectric」、Brexit後も英国の欧州排出権取引市場(EU-ETS)残留を要請。市場縮小による排出権価格の混乱を懸念(RIEF)

2018-06-26 15:39:01

EUelectricキャプチャ

 

 欧州の電力会社の団体である Eurelectric(本部ベルギー)は、来春にも迫っている英国のEUからの離脱によって、卸売電力市場での混乱が起きないよう、英国がEUの温室効果ガス排出権取引制度(EU-ETS)に残留するか、それが無理な場合は、国内ETS市場を創設してEU-ETSにリンクするかの、どちらかを実現するようEUと英国両者に要請した。カーボンクレジットは欧州電力市場での必須取引になっており、市場の縮小化・分断化は電力供給に支障を来すとの考えだ。

 

 Eurelectricは欧州の主要電力会社等32社で組織する業界団体。日米中国なども国際パートナーとなっている。日本でいえば電事連に該当する。

 

 Eurelectricは「Brexit: EU-UK future energy relationship」と題したペーパーをまとめ、「EUと英国の経済と社会に電力を供給する相互の利益とエネルギーの重要性のために、(Brexit後も)可能な限り、両者間での卸売電力市場の統合をサポートし、国境を越えた相互接続とエネルギー効率化の協力を進めるべきだと、われわれは考える」との見解を披露した。

 

Euelectric2キャプチャ

 

  EurelectricはETSの継続だけではなく、英国がEUのエネルギー規制当局機関であるASERや電力送電網のネットワークであるENTSO-E ガスのネットワークのENTSOGなどにも、移行期間だけでなく、できれば引き続き、フルメンバーとしてとどまることを求めている。これらのEU機関には、EU加盟国だけでなく、ノルウェーやスイスなどの非EU欧州諸国が実質的に参加していることも先例になる。

 

 欧州ではエネルギー産業が、脱石炭化において重要な役割を果たしている、との立場から、英国がEU-ETSにとどまることを強調した。EU-ETSは現在、第Ⅲフェーズにあるが、2021年から第Ⅳフェーズに移行する(2030年まで)。欧州経済危機時に暴落したETSのカーボンクレジット価格(EUA)も回復基調にあり、第Ⅳフェーズでの取引の安定を目指すには、英国と市場を分断することは望ましくないとの判断だ。

 

 また英国がEUから離れる際に、原子力協力の共同体であるEuratom からも離脱することになる。この点についても、EUと英国、双方の利益のために適切な対応をとることを求めている。

 

 Eurelectricの要請は、すでに電力をはじめとするエネルギーの統合市場が出来ている中で、有力市場の英国を分断することのEU全体への影響を懸念したもので、経済的視点からは当然の要請ともいえる。ただ、BrexitはEU英国双方の政治的駆け引きになっており、EU-ETS市場だけを別扱いにする判断を現時点で選択できるかというと、極めて微妙といわざるを得ない。

 

 EUがパリ協定を掲げて温暖化対策にまい進する中で、EU-ETSの市場力を弱めることは望ましくない、との政治判断で両者が合意できるかだ。

https://www.eurelectric.org/news/minimising-the-brexit-disruption-on-energy-and-climate/