HOME4.市場・運用 |オーストラリア政府、同国版「現代奴隷法案」を議会に提出。強制労働や人権無視等の情報開示義務付け。対象企業は年間売上高1億豪㌦(約82億円)超。ただし開示義務違反の罰則設けず(RIEF) |

オーストラリア政府、同国版「現代奴隷法案」を議会に提出。強制労働や人権無視等の情報開示義務付け。対象企業は年間売上高1億豪㌦(約82億円)超。ただし開示義務違反の罰則設けず(RIEF)

2018-07-31 22:21:45

humanwatch1キャプチャ

 

 オーストラリア政府は、企業の自社及び サプライチェーンでの現代奴隷(強制労働や人身取引など)取引の有無の情報開示を義務付ける「オーストラリア版現代奴隷法案」を議会に提出した。同様の法律はすでに英仏、米カリフォルニア州等で成立している。オーストラリア版の対象は、年間売上高が1億豪㌦(約82億円)以上の企業。同国内で事業を展開する外国企業も対象になる。

 

 (写真は、カンボジアでの衣料品工場の風景。労働者は時に、強制的に残業を強いられ、給与カットや妊娠による強制解雇などを強いられる)

 

 法案は「Modern Slavery Bill 2018」。オーストラリア議会は8月初めから法案の審議に入る。

 

 ベーカー&マッケンジーによると、開示が義務付けられる内容は、①企業の組織構造、事業、及びサプライチェーン②事業及びサプライチェーン(子会社の事業及びサプライチェーンも含む) が抱える現代奴隷のリスク③デューディリジェンスや是正プロセスなど、現代奴隷リスクを評価し、こ れに対処するためになされた取組み(子会社による取組みも含む)④自社の取組みに対する有効性評価⑤開示の準備における子会社との協議プロセス⑥その他関連情報、など。http://www.bakermckenzie.co.jp/wp/wp-content/uploads/Newsletter_180731_CorporateTaxGlobalUpdate_24_J.pdf

 

 また開示する情報に対しては、取締役会などの主要統治機関の承認と、取締役などの責任者の署名が必要になる。開示情報は、原則として会計年度末から 6 か月以内に提出するとともに、一般の人もアクセスできるよう、企業のウェブサイトに「現代奴隷開示登録サイト」を設ける必要がある。

 

  労働者に強制労働を強いたり、不利な労働条件を課する現代奴隷状態は、国連労働機関(ILO)の調査によると、世界全体で2016年現在で、約4030万人が該当するという。特にアフリカや、オーストラリアを含むアジア太平洋地域に多いという。こうした事態を受けて、現代奴隷を法規制する動きはすでに欧米を中心に広がりをみせている。

 

 2012 年に米カリフォルニア州が、サプライチェーンでの現代奴隷を排除する取組みの開示を求めるサプライチェーン透明法を施行したのをはじめ、2015 年に英国で現代奴隷法の導入、2017年にはフランスでも法規制が実施された。

 

 今回のオーストラリアの法規制はそうした流れを受けている。ただ、国際NGOのヒューマンライツなどは、①オーストラリア版はデューデリジェンスに関する情報開示を求めているが、デューデリジェンスの強制力はなく開示要求を満たさない企業への罰則がない②適用企業の対象を売上高1億豪㌦以上としており、それ以下で深刻な人権問題が懸念される企業や業種への考慮が十分でない③オーストラリア政府自身が自らの調達先企業に対する情報開示を義務付けていない、などの点への懸念を表明している。

 

 グローバルに広がる現代奴隷問題の開示義務に対して、今後企業がとるべき対応として、対象企業はグローバルサプライチェーンで抱える「現代奴隷リスク」を適切に評価し、リスク回避策を講じることが求められる。

 

   特に、自社の役職員の意識改革にとどまらず、サプライチェーンでの順守を厳格化するためのサプライチェーンマネジメントの一新が課題となる。グローバル企業がコスト対策としてとらえてきたサプライチェーンマネジメントをリスク対応として明確に位置付けられるかどうかがカギだ。

https://www.aph.gov.au/Parliamentary_Business/Bills_Legislation/Bills_Search_Results/Result?bId=r6148