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気候変動激化による熱ストレスの増大、西アフリカや東南アジアなどの輸出力に影響。「輸出VaR」分析で、グローバル・サプライチェーンリスクが浮き上がる。英リスク分析会社(RIEF)

2018-08-06 08:22:33

Heatstress1キャプチャ

 

 温暖化の影響による気温上昇で、今後30年にわたって、グローバルに熱ストレス(Heat Stress)が経済活動に影響するリスクが顕在化しそうだ。英リスク分析機関の「Verisk Maplecroft」によると、特にアフリカと東南アジアの両地域は、熱ストレス(Heat Stress)によって労働者の生産性が低下、輸出収入も打撃を受けると推計している。途上国の低労働賃金を見込んだグローバル・サプライチェーンの企業戦略にも修正を迫られる勢いだ。

 

 Verisk Maplecroftは、1980年~2045年にわたる過去・現在・未来の期間の毎日の気温を予想値も含めた「Heat Stress 指数(Indices)」を作成。それらに輸出経済の現行の産業別構成要素に基づくデータを加味して、気候変動に基づく熱ストレスによる輸出バリュー・アット・リスク(Export Value at Risk: EVaR)を推計した。

 

 熱ストレスは労働者に脱水症状や極度の疲労を起こして生産性を低下させ、最悪の場合は死に至らせるリスクとなる。同社の調査では、熱ストレスリスクの高い地域では、労働者への影響だけでなく 、都市化の増大や冷房需要の増大が安定的な電力供給に支障を来す恐れも惹起する。これらの複数のリスクが相まって、企業活動の操業停止リスクを高める。

 

 こうした熱ストレスリスクの高い国は、温暖化の適応対策(Adaptation)が十分に実施されない限り、今後、増加していくと指摘している。

 

Heatstress2キャプチャ

 

 同社による地域別のEVaR推計では、西アフリカが10.8%と最も高い。同地域は今世紀半ばまでリスクが増大していく。次いで中央アフリカが7.9%、中近東6.1%、東南アジア 5.2%、 南アジア4.5%の順。いずれも緯度の低い地域で本来の温度が高い地域でさらに気温が上昇することで熱ストレスに影響が高くなるとの推計だ。

 

 中緯度地帯では北米1.0%、東アジア1.6%、欧州0.1%とEVaRは低く、アフリカでも南アフリカは1.0%と北米並みになっている。熱ストレスリスク増大による輸出セクターを中心とした経済的損失は、グローバル企業がすでに集中している東南アジアが最も大きく年間780億㌦に達する。次いで、西アフリカの100億㌦が続く。

 

 国別の「Heat Stress 指数(Indices)」では48カ国が「激しいリスク(extreme risk)」に分類された。そのうちほぼ半分は西アフリカ諸国である。日本や西欧ではこの夏、熱波の影響で異常高温が続いているが、長期的にみると、熱ストレスによる経済的影響はこれまでのところ吸収されている。熱ストレスの最も低い国は、英国、アイルランド、フィンランド、ノルウェー、デンマーク、スウェーデンの各国。

 

 ただ、別の調査では、途上国と同様の熱ストレスリスクは、欧州等の中緯度地域の諸国でも、今後、適切なCO2排出規制などの行動をとらない限り、熱ストレスの影響が常態化していく可能性があると指摘している。

 

 熱ストレスの影響を受けやすい産業としては、労働者が熱ストレスの影響を直接受ける農業のほか、石油・ガス、鉱業などが相当する。

 

 温暖化による熱ストレスという現象がVerisk MaplecroftのEnvironment and Climate ChangeのアナリストのAlice Newman氏は「輸出市場では労働力の低下は、それによって生産コストが上昇すると、輸出相手国の輸入コストの上昇を意味する。そうなるとサプライチェーンはより低リスクの地域にシフトすることにになり、地域経済に大きな打撃を与える可能性がある」と警告している。

 

 東南アジアの製造業の場合、2045年までに熱ストレスによるEVaRは5.2%となり、特にベトナムとタイでは、地域全体の製造業輸出のほぼ3分の2のEVaRが高まることになる。

 

https://www.maplecroft.com/