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欧州排出権取引のカーボンクレジット価格上昇継続。昨年5月から4倍増、今後5年間でさらに倍増見通し。㌧当たり40ユーロも。余剰排出枠吸収で効果。電力業界の発電転換促進の期待も(RIEF)

2018-08-23 00:39:23

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  EUが温暖化対策で導入しているEU排出権取引制度(EU-ETS)のカーボンクレジットであるEUA価格が、今後5年間で倍増し、1㌧当たり35ユーロ~40ユーロ(約40㌦~46㌦)になるとの見通しが出てきた。EUA価格は一時は低迷していたが、EUの制度改革を反映する形で、すでに昨年5月以降、約4倍増と値を上げており、今年末には25ユーロに達するとみられている。

 

 EU-ETSのクレジット価格上昇の推計をまとめたのは、英シンクタンクのCarbon Tracker。リサーチ部門の責任者で元バークレイズ銀行のMark Lewis氏が執筆した「Carbon Countdown Prices and Politics in the EU-ETS」というレポートだ。

 

 EU-ETSのクレジットであるEUA価格の需給がタイトになってきた背景には、パリ協定締結後の温暖化対策の広がりと、EUがクレジット価格安定のために導入を決めたMarket Stability Reserve(MSR)を軸とする価格調整策が効果をあげてきたことが大きい。

 

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 MSRの本格実施は2019年1月からだが、先行する形で、2014年~16年には、入札対象のクレジットのうち9億㌧分を対象から外して取り置く措置を実施した。緩んだ需給環境で供給を絞ることで価格の安定化が進み、2015年の余剰排出枠は3億㌧減った。

 

 この結果、EUA価格は17年5月の4.38ユーロから、直近の18.28ユーロへと約4倍も上昇している。さらにEUは第4フェーズの排出枠の削減率を、第3フェーズよりも強化し年2.2%とする ことで需給調節をさらに進める計画だ。だぶついていた余剰排出枠は、2029年にはMSRにほぼ吸収される見通しだ。

 

 Carbon Trackerはレポートで、EUA価格の上昇によって電力会社は、CO2排出量の多い石炭火力等による発電から、ガス火力発電、それもコンバインドサイクル発電(CCGTs)などへの切り替えが進むとみている。低炭素な発電に切り替えることで、CO2排出量を相殺するカーボンクレジットを購入する側から、クレジットを売却する側に転じる期待だ。

 

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 国別でもっとも発電転換の期待が大きいのは、ドイツ、イタリア、スペインとオランダ。これらの国では、EUA価格が40ユーロになると、2019年~23年の間で4億㌧のCO2排出量が削減されることになるという。

 

 ただし、報告はクレジット価格がさらに上昇して、㌧当たり50ユーロを超えるかどうかは難しいと指摘している。「EUAsは政治的に50ユーロがキャップ(上限)とみなされているためだ」(Lewis氏)。

 

 石炭エネルギー使用の多い東欧諸国にとって、クレジット価格の上昇はコストアップとなり、国内経済的な影響が大きくなる。EU-ETS自体、EUの政治的判断を尊重する形で導入されており、域内加盟国間で亀裂が入るような運営は避けざるを得ないとみられるためだ。来年導入されるMSRはそうした点も睨んで市場価格安定政策をとるものとみられる。

 

 こうした「政治的な配慮」に加えて、今後の再エネ電力の価格の下落見通しや、蓄電技術の展開等の影響なども現時点では予測しづらいことなどから、2024年以降のクレジット価格の予想には不確実性が大きい、としている。

https://www.carbontracker.org/reports/carbon-countdown/