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仏シンクタンクの2°Investing Initiative。TCFD報告に基づくシナリオ分析の無料オンライン版を開発。上場株と債券を対象。融資による信用ポートフォリオは次のステップで(RIEF)

2018-09-04 16:05:22

2℃II1キャプチャ

 

 企業が抱える気候変動リスクの財務的情報開示を提言した「気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)」の報告に基づく情報開示を支援する無料ツールが開発された。仏気候シンクタンクの2°Investing Initiative(2°II)が、国連支援の責任投資原則(PRI)や米カリフォルニア州保険監督局などの支援で、企業保有の上場株式、債券ポートフォリオのリスク分析のパイロットモデルを作成した。2°IIは、さらに対象を銀行融資などの企業信用ポートフォリオに拡大する方針だ。

 

 2°IIによると、開発したモデルは「The Paris Agreement Capital Transition Assessment(PACTA)」。2°IIはこれまでも、カリフォルニア州保険監督局の Dave Jones 氏や、スイス金融当局、オランダ中央銀行などとの個別の協力を積み上げる分析でモデル開発を進めており、すでにこれらの金融当局を含めて250以上の機関投資家がモデルに基づく投資評価をオンラインベースで実践しているという。参加投資家の多くはPRI署名機関で構成している。

 

 開発されたモデル分析では、エネルギー、電力、輸送関連、セメント、鉄鋼のCO2排出量が多く、影響評価のカギになる産業を対象としている。これらの産業において、低炭素化への移行をスムーズにする技術開発の動向やパリ協定が目標とする2°目標への適合状況などを評価して、上場株式と債券資産への影響がわかる形になっている。TCFD報告が提唱したシナリオ分析による気候変動の影響度合いについては、2°シナリオを含む複数のシナリオ分析が可能という。

 2℃キャプチャ

 

 パイロット事業では、グローバルな機関投資家約800を対象にし、2000以上の投資ポートフォリオを実証的に検証した。これらの対象ポートフォリオの総額は10兆㌦(約1100兆円)を上回るという。ただ、分析に使うデータは、非上場企業では十分でないほか、上場企業でも気候変動関連情報の開示が十分ではないところが少なくない。

 

 そこで、2°IIでは発電所や自動車工場などのような資産レベルのデータを活用したという。対象となったCO2排出量の多い企業は装置産業が多く、資産評価でほぼ100%、当該企業の気候リスクを把握できるとしている。これらの高CO2排出企業の排出量は世界のCO2排出量のほぼ75%を占め、投資家のポートフォリオでは15~25%を占めるという。

 

 2°IIでは、開発したパイロットツールは、機関投資家が自らの投資ポートフォリオ全体の気候関連リスク・オポチュニティを評価するために使えるだけではなく、金融当局が金融機関の健全性をチェックする監督上のツールとしても活用できるとしている。またTCFDに基づく評価だけでなく、フランスが企業に対して義務付けているESG情報開示のArticle 73タイプの国内情報開示規制や、欧州委員会が現在目指しているEUレベルの情報開示にも活用できるとしている。

 

  2°IIは、今回のパイロットで開発した株と債券の分析ツールを、銀行などの融資に基づく信用ポートフォリオにも広げて適用するため、新たに研究パートナーをグローバルに募っている。

https://2degrees-investing.org/