HOME9.中国&アジア |インドネシア・チレボン石炭火力発電所2号機建設問題で、現地住民らが環境許認可取り消しを求め最高裁に上告。事業主体の丸紅は、最近「宣言」した石炭事業転換の正否を試される(RIEF) |

インドネシア・チレボン石炭火力発電所2号機建設問題で、現地住民らが環境許認可取り消しを求め最高裁に上告。事業主体の丸紅は、最近「宣言」した石炭事業転換の正否を試される(RIEF)

2018-09-18 09:04:33

Marubeni3

 

 大手商社の丸紅が中心になってインドネシア西ジャワ州で建設を予定しているチレボン石炭火力発電所2号機の建設に反対する現地の住民・NGOらは、同事業への環境許認可の取り消しを求め、最高裁に上告した。住民らの訴えに対して、ジャカルタ高裁は8月に棄却判決を出している。ただ、丸紅は先に、石炭火力の新規事業の原則中止方針を打ち出しており、チレボン事業への対応が注目される。

 

 チレボン石炭火力発電所事業は、すでに1号機が2012年に商業運転を開始している。発電力660MWの超臨界圧(SC)方式。1号機の事業者は、丸紅(32.5%)、韓国中部電力(27.5%)などが出資するチレボン・エレクトリック・パワー社(CEP)。総事業費は約8.5億㌦。融資総額5.95億㌦は国際協力銀行(JBIC)のほか、日本の3メガバンクがそろって融資した。事業には日本貿易保険(NEXI)も付保した「日の丸プロジェクト」だ。

 

 今回の2号機も同じく丸紅主導の「日の丸プロジェクト」。丸紅が35%を出資するチレボン・エナジー・プラサラナ社(CEPR)が事業主で、他に東電・中部電が共同設立したJERA(10%)も参加している。発電量は1号機を上回る1000MWで、CO2排出量はSCより10~20%少ないとされる超々臨界圧(USC)方式。総事業費は約22億㌦、うち約8割程度をJBICが7.3億㌦融資、韓国輸出入銀行(4.2億㌦)、3メガバンクなどが5.9億㌦の予定。

 

稼動中のチレボン石炭火力発電1号機
稼動中のチレボン石炭火力発電1号機

 

 両発電所建設現場周辺の住民らは、小規模漁業、貝類の採取・栽培、テラシ(発酵小エビのペースト)作り、塩づくり、農業などの伝統的な暮らしを続けている。しかし、1号機の稼働によって、従来の生活は甚大な影響を受け、多くの地域住民が事業前より厳しい生活を強いられているという。

 

 また大気汚染の加速による現地住民の呼吸器疾患増加の懸念も高まっている。日本の環境NGOのFoE Japanによると、同発電所1号機には日本の石炭火力事業で利用される最良の公害対策技術が使われず、2号機も利用予定になっていない、と批判している。

 

 こうしたことから、住民たちは2016年12月に、2号機の建設を差し止めるため、州政府による環境許可の取り消しを求める訴訟を提起した。バンドン地方行政裁判所は翌17年4月19日に原告勝訴の判決を出した。発電所の拡張計画においてチレボン県空間計画が未修正のままであったり、環境影響評価(EIA)の策定過程でコミュニティーの適切な参加が確保されていないなど、複数の環境法違反があるとの住民らの指摘を認めた。http://rief-jp.org/ct6/69387

 

すでに一部で道路などの工事が進んでいる
すでに一部で道路などの工事が進んでいる

 

 ところが 、西ジャワ州政府は直ちに控訴するとともに、事業者は新たな環境許認可の改訂を申請。州政府は、住民らが知らない間に、7月17日に新たな環境許認可を発行するという展開になった。JBIC等の銀行団も融資を始めた。そこで住民らは17年12月に改めて、訴訟を提起した。

 

 しかし、今年5月、バンドン地方行政裁判所は原告の訴えを棄却。ジャカルタ高裁も8月1日、バンドン行政裁判所の判決を支持する決定を下したという経緯をたどっている。これに対して、今回、住民・NGOらは改めて、控訴判決への反論文書をバンドン地裁に提出、今月5日に最高裁に上告した。

 

 反論文書では、「高裁は、(原告の)訴えた重要な中身に注意を払っていない。重要なのは、チレボン石炭火力・拡張計画に係る環境許認可発行の手続に法的瑕疵があった点だ。加えて、環境アセスメント文書の不備や同事業自体が環境(保護)の原則や本質に沿わないことに、何ら検討を行なっていない」と指摘している。

 

marubeniキャプチャ

 

 もう一つ、最高裁で注目されるのは、事実上の事業推進主体である丸紅の対応だ。丸紅は出資比率に応じた出力で世界に計300万kW分の石炭火力発電事業の持ち分を保有。日本企業でもっとも石炭火力事業へのコミットメントが大きい企業として、各国の環境NGOだけでなく、欧米の機関投資家などからも関心を集めている。

 

 このため、先ごろ、同社は石炭火力の新規開発事業を原則、停止するほか、保有する既存の石炭火力権益も2030年までに半減させ、人材や資金を太陽光発電など再生可能エネルギー事業にシフトさせる、と報道されている。http://rief-jp.org/ct4/82807?ctid=72

 

 この方針をチレボン発電事業に当てはめると、1号機は2030年までの半減対象となり、2号機は新規事業なので原則停止対象に当たることになる。両事業とも「日の丸プロジェクト」であり、事業主体の丸紅が単独で方針転換をするとは思いにくいが、丸紅は、低炭素経済社会を目指す宣言と、現実の継続・新規事業の取り扱いとの整合性を、市場と社会に説明する必要がある。丸紅だけでなく、「日本連合」全体の課題でもある。



http://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/180905.html
http://www.foejapan.org/aid/jbic02/cirebon/background.html