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FSBが、TCFD勧告の現状報告レポートを初めて公表。勧告支援機関数500超す。日本勢は25機関。財務報告書での気候リスク開示や、シナリオ分析の採用はまだ少数派(RIEF)

2018-09-27 07:48:18

TCFD1キャプチャ

 

   金融安定理事会(FSB)の気候関連財務情報開示タスクフォース(TCFD)は、昨年6月の報告書公表以来、初の現状報告レポートを公表した。それによると、TCFD勧告への支援表明企業数は513機関に達した。主要企業対象の調査では、多くの企業が、勧告の少なくとも一つには適合する情報開示をする一方で、気候リスクによる財務的影響の開示は限られ、開示の手段も財務報告書よりCSR報告書等にとどまるなど、勧告の「核心」に迫った企業は極めて限定的だった。

 

 TCFD勧告の支援企業数については、4月にTCFDの事務局作業を担当するブルームバーグ社の担当者が、この夏の終わりまでに500社に拡大する目標を非公式に示していた。「TCFD500」を実現することで、気候変動情報を企業の財務情報に盛り込む動きを、市場のベンチマークとして位置付ける狙いだ。http://rief-jp.org/ct4/78714

 

TCFD2キャプチャ

 

 結果的に500社目標を達成した。日本勢は3メガバンクや、3損保、3証券などの金融機関のほか、日立、リコー、コニカミノルタなどのメーカーなど合わせて25社(その他に金融庁など3公的機関)。513機関のうち金融機関は287社、非金融機関は170社。合計の時価総額は7兆9000億㌦。金融機関が保有・運用する資産額はほぼ100兆㌦に及ぶという。

 

 FSB議長のイングランド銀行総裁、マーク・カーニー氏は「今回の報告レポートは、気候情報開示がすでにメインストリームになりつつあることを示している。世界の大銀行、資産運用機関、年金基金を含む500以上の企業がTCFDを支援しているのだ」と、勧告への取り組みが1年ほどの間に確実に広がっていることの手応えを強調した。

 

 レポートでは、その企業の取り組み状況を調べるため、8分野の約1800の主要企業を対象として気候情報開示の実践状況を調べた。8分野のうち4分野は金融機関(銀行、保険、資産運用、資産保有)で、残りの4分野は非金融企業(エネルギー、運輸、素材・建物、農業・食料・林業製品)。

 

 その結果、調査対象となった約1800社の大半は、TCFD勧告のうち、少なくとも1つの項目に適合する気候情報の開示を実行しているという。その多くは気候関連リスクと事業のオポチュニティに関する情報の開示で、気候変動が企業に及ぼす金融的影響(企業価値の低下等)の開示に踏み込んでいる企業はごくわずかだった。

 

 TCFDが勧告の中でも最重視しているのは、気候変動のシナリオ分析による企業価値への影響の開示。調査対象企業で、2℃シナリオ、あるいはそれ以下のシナリオを含む異なる気候変動シナリオ分析に基づいて、先を見据えた(forward-looking)な気候目標の設定や、自社の経営戦略の強靭性をチェックした情報等を開示する企業は、かなりの少数派だった。

 

 情報開示のポイントは、金融機関と非金融企業では微妙に異なる。非金融企業は、自らのCO2排出量が気候変動に影響することから、気候関連の指標や目標の設定等については、金融機関よりも開示が進んでいる。一方、金融機関は気候リスクを全体のリスクマネジメントにいかに組み込むかといった視点での開示にシフトしている。

 

 TCFDは、企業が気候情報を財務的に捉え、自らの財務報告書で開示することを求めている。今回、調査対象企業のうち104企業がそうした開示を実践していた。だが、そのうち多くの企業の開示媒体は、サステナビリティ・レポートなどのCSR関連報告書にとどまった。TCFDが目指す財務報告書での開示に踏み切ったところは少数派という。

 

 TCFDの座長を務めたマイケル・ブルームバーグ氏は「企業は自らが直面するリスクについて知るようになればなるほど、それらに効率的に対応しようとする。さらに企業がそうした情報を開示すればするほど、投資家はより理解が進んで、スマートな投資判断ができるようになる」と、情報開示に踏み出した企業の今後の加速度的な対応に期待を示している。

 

 カーニー氏も「金融機関や投資家による『やりながら覚える(learning by doing)』の手法で、好循環が生まれれば、より多くの、より良い気候関連情報が開示されて投資家に評価され、そうした評価が他の企業の背中を押してTCFD勧告の採用に向かわせるだろう」と語った。

 

 ただ、市場関係者の間では、最近のHSBCによる同種の企業・機関投資家のTCFD勧告の採用状況調査との違いに、目を向ける向きも少なくない。HSBC調査では、勧告を採用していると答えた機関投資家はわずか10%。一般企業の場合はさらに低い8%だった。こうした民間データに比べて、「FSBの見方は楽観的過ぎる」との声もある。

 

 また、TCFD勧告に基づく財務報告書での気候リスク・オプチュニティの開示、さらにはシナリオ分析による開示を進めるには、「learning by doing」だけでは十分ではない。企業が遵守すべき会計基準の変更や、先行開示企業への税制上の優遇措置など、政策的な線引きと追加インセンティブが開示速度を上げるうえで必要になりそうだ。

 

 その点で、TCFD勧告の支持機関の中に、政策当局が複数、名を連ねたことに市場の関心は集まる。英、仏、ベルギー、スウェーデンの各国は国として支持を表明した。また日本の金融庁をはじめ、オーストラリア、香港、オランダなどの金融監督当局も手を挙げた。政策当局が勧告に沿った行動をとるということは、勧告の趣旨を実施しやすい政策措置を打ち出す期待がある。

 

 FSBでは第二弾の現状報告レポートを2019年半ば、と設定している。今後の9カ月程度の間に期待されるのは、「TCFD1000」といった量的な積み上げよりも、シナリオ分析の採用、気候リスクの金融価値での開示など、開示の質的な向上にある。25社の日本の支援企業の中からも、「開示ベストプラクティス」企業が率先して登場することを期待したい。

 

https://www.fsb-tcfd.org/wp-content/uploads/2018/08/FINAL-2018-TCFD-Status-Report-092518.pdf