HOME4.市場・運用 |IPCC特別報告書公表。パリ協定の「1.5℃未満」目標まで、残り12年。「2℃上昇」とは海面上昇で10cmの差。影響の大きさの違いを強調。各国の政治的決断を迫る(RIEF) |

IPCC特別報告書公表。パリ協定の「1.5℃未満」目標まで、残り12年。「2℃上昇」とは海面上昇で10cmの差。影響の大きさの違いを強調。各国の政治的決断を迫る(RIEF)

2018-10-08 22:46:05

IPCC11キャプチャ

 

 国連気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は8日、世界の最先端の気候研究者たちの合意として、温室効果ガスの排出ペースが現状のまま進むと、早ければ2030年にも世界の平均気温は、パリ協定が努力目標とする産業革命前よりも1.5℃上昇するとした特別報告書を公表した。1.5℃の気温上昇は、世界で気候変動を激化させ、自然災害の多発化、激甚化を招くとされる。2030年までに残されているのは12年しかない。

 

 (写真は、IPCC特別報告書の警告を受けて、各国政治家に迅速な行動を求める環境NGOのキャンペーン活動:韓国・仁川)

 

 同報告書は、1.5℃上昇のペースは変動するとしても、遅くとも2050年までには達成する可能性が高いとしている。また仮に1.5℃上昇にとどめたとしても、グリーンランドや北極圏等で既に進行している海氷や氷床の融解などがさらに加速し、今世紀末までの海水面の上昇は最大77cmになると推計している。

 

 2015年に合意したパリ協定では、産業革命以降の気温上昇を2℃未満に十分抑制し、できれば1.5℃未満に抑えることを目標とした。今回の特別報告書は韓国で開いていたIPCC総会で採択された。

 

IPCC12キャプチャ

 

 報告書によると、世界の平均気温は産業革命前よりすでに1℃上昇している。したがって、1.5℃未満に抑えるには、残り0.5℃の余地しかない。このところ10年間で平均0,2℃のペースで気温上昇が続いており、このままでは2030年~2052年の間に0.5℃上昇し、1.5℃の目標を超えると予測している。

 

 報告書は、1.5℃上昇と、2℃上昇の場合の気候変動の影響を試算・評価した。例えば、海水面は、1.5℃の場合は2100年までに、1986~2005年の水準に比べて6cm~77cmの幅で上昇するとみられる。これが2℃上昇だとさらに10cm高くなる。海面の10cm上昇分だけで世界中で1000万人が影響を受ける。

 

 1.5℃と2℃との最も大きな影響の差は自然界の生態系への影響と指摘している。1,5℃の場合、昆虫の6%、脊椎動物の4%、植物の8%の種が生息域の半分以上を失う。これが2℃の場合、脊椎動物や植物の絶滅の影響は倍となり、昆虫の影響は3倍に膨らむ。昆虫の減少は、植物や穀物等の授粉活動に大きな打撃となる。

 

IPCC15キャプチャ

 

 2℃の場合、海温の上昇でサンゴ礁は99%死滅するとみられる。ただ、1.5℃にとどまった場合、10%以上は生き残る可能性はあるという。海温上昇に加えて、温暖化による酸性化の進行と、海水中の酸素量の低下によって、あるモデルでは、漁獲量は2℃の場合、1.5℃の場合の倍の300万㌧減少するという。

 

 温暖化のテンポが世界平均より2~3倍早いとされる北極圏では、1.5℃の場合、夏季に海氷が消える状態が100年に1回の頻度で生じるが、2℃だと、10年に1回の頻度に10倍増する。また、シベリア等の永久凍土が溶解する地域の広さは、2℃だと、250万㎢に広がり、日本列島の6倍以上の面積になる。永久凍土の溶解は、温暖化係数がCO2の25倍も高いメタンの地中からの放出につながるリスクを高める。

 

 つまり、1.5℃からの0.5℃上昇は、影響の大きさで数段大きい影響を地球と人類に及ぼすのである。そこで報告書は、気温上昇を1.5℃未満に抑えて安定させるために、2030年までに世界全体の年間のCO2排出量を2010年比で約45%削減し、2050年には、CO2排出量は実質ゼロにしなければならない、と警告している。

 

IPCC13キャプチャ

 

 CO2排出を実質ゼロにするには、石炭火力などの化石燃料使用はほとんど不可能になる。世界の電源構成での再生可能エネルギー比率は70~85%、石炭火力等はほぼゼロにしなければならない。

 

 報告書で影響分野のワーキンググループを担当した共同議長のDebra Roberts氏は「われわれは瀬戸際にいる。(報告書は)科学コミュニティから世界への過去最大級の警鐘である。人類に告げねばならないのは、われわれは今、直ちに行動しなければならないということだ。報告書が、『何とかなるだろう』といった人々の独りよがりなムードを一掃し、人々を動かすことを望む」と強調している。

 

 緩和分野のワーキンググループの共同議長のJim Skea氏も「報告は各国政府に対して、かなり厳しい選択を提案している。1.5℃の上昇にとどめることでわれわれは大きなベネフィットを得る。そのために、エネルギーシステムの抜本的な変革に取り組み、成し遂げなければならない。我々は科学者として、物理学と化学の法則に基づいて報告書をまとめた。次のチケットは政治意志に委ねられている」と各国の対応を求めている。

 

 これまでパリ協定の目標は、「2℃上昇」を食い止めることを軸とし、「1.5℃」は二次的な努力目標とみなされてきた。しかし、今回の報告書は明らかに両者の間で気候変動の影響についての劇的な違いがあることを強調している。1.5℃未満でとどめないと、地球と人類は温暖化の破局の道を食い止められない可能性が高いと警告している。目指すべき目標は「1.5℃未満」で踏みとどまれるかどうか、なのである。

 

 こうした科学の警鐘を世界の政策当局が正面から受け止めることができるか。12月にポーランドで開く国連気候変動枠組条約締約国会議(COP24)が開かれる。単に24回目のCOPにとどまるか、歴史に残るCOPとなるか。いつも「受け身」で「様子見」の日本政府にとっても、正念場となるかもしれない。

http://www.ipcc.ch/pdf/session48/pr_181008_P48_spm_en.pdf