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年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)、「債券運用へのESG要素統合」で世界銀行との共同報告書を公表。課題の分析とともに、「ESG投資の結果」を重視する必要性を強調(RIEF)

2018-11-08 13:30:12

GPIF1キャプチャ

 

 年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は7日、世界銀行と共同で進めていた「債券投資へのESG要素の統合」と題する調査報告書を公表した。それによると、債券投資に際してESG要素を考慮することは、財務的な利益を損なうことなく、むしろ安定的な財務的利益を得ることにつながる、としてESGを統合すべきとの示唆が得られた、としている。また債券のESG投資はグリーンボンドに限定されたものではなく、債券投資家にとっての一般的プロセスになりつつある、と評価している。

 

 報告書はGPIFと世銀のパートナーシップでまとめられた。報告書自体は世銀が専門家を活用して執筆した。報告は債券投資へのESG統合の課題として、ESGについての標準的定義が確立されておらず、特にS(社会)の分野で見解が多様に分かれている点を指摘。情報源は多様化してきたが、新興国市場データ等は十分でない、としている。また債券発行体への投資家のエンゲージメント(建設的な対話)の推進が困難、信用格付けや債券指標においてESGの役割が不明瞭などの課題をあげている。

 

 市場が拡大するグリーンボンドについては、供給に対する需要過多(ボンドの発行に対して投資家の需要増)が生じていると指摘。ESG要素の評価では、信用リスクのみならず、流動性リスクや市場リスクとの関連も見据える必要性を強調している。

 

 そうした概観のうえで、「ESG 投資は、その過程を重視するものから、その結果を重視するものへと発展しつつある」と展望し、投資家に対しては、自らESG の適用とインパクト投資の原則や基準などの検討を促し、金融機関に対しては、持続可能な債券投資への需要に対応する革新的な投資商品の開発を求めている。

 

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 報告書は、ESG要素を投資判断に統合するうえでの課題について「合意された標準」がない中で、機関投資家は、「標準化」と「カスタム化」のバランスをとることを求められていると評価している。ただ、「ESG課題の決定的なリストは存在せず、合意形成も不可能に思われる」とも指摘した。この「基準の不在」問題については、当局による「公的な基準」も「時期尚早」だとして、現状は、GHG排出量やエネルギー効率性、ガバナンスの実践などにうちて、企業/業界/プロジェクトの各レベルでの特定規制が望ましい、との立場をとっている。

 

 ESG要素全般についての批判としては、ESG 要素の選好と投資収益が両立しない可能性や、 投資対象が狭まり、分散投資ができなくなる可能性などを列挙、債券に特有のESG課題としても、①債券投資の時間軸とESG 要素が顕在化する期間のミスマッチ②ESG とその他のリスク/機会(市場、流動性など) の関係の不透明さ③ESG、信用格付、信用スプレッドの間の関係の不透明さ④債券保有者のための「エンゲージメント」の課題、などを例示している。

 

 こうした課題を正面から取り上げる一方で、ESG関連の情報開示の進展や、ビッグデータや衛星活用などの新たな情報収集源の取り込み、AIや機械学習やクォンツの活用などの潮流への期待も示している。

 

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 報告書はこうした分析を経て、資産投資家と資産運用会社に対して、まずは保有債券全体に統合するESG戦略の適正化を求めている。0.01%レベルの収益率の違いを重視するよりも、ESG投資の目標設定を示すことの重要性の強調だ。

 

 また、「結果を重視するESG投資への発展」という展望に関しては、これまでのようにESGデータの発見や投資商品などのインプットや、ESG分析などの内部プロセスを重視するアプローチが引き続き、続くとみる一方で、重視すべき「結果(アウトプット)」として、①ESG成果の概念化の明確化②債券を含むポートフォリオ全体でのESインパクトの把握③グリーンボンドなどに限らず、ESGインパクトを評価・コミュニケーションする方法の決定④ポートフォリオとSDGs成果の関連付け、の4点を提言している。

 

 ESG要素を統合するための各ステークホルダーの役割としては、政府に対して、国債発行に関する財務会計の実施と、ESGと開発課題に関する国のデータ開示を求めた。また企業に対しては、財務面とESG面の情報開示の改善、などを要請している。

 

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  そのうえで、今後の取り組みが必要な分野として、①ESG分析やツールの根拠となるデータを改善する現行のイニシアティブを今後も支援②ESG要素と財務的リスク・リターンの関係についてのより厳密な調査③ESGデータを適用するフレームワークを引き続き改良④より革新的なサステナブル投資商品の開発、の4点を求めている。

 

https://www.gpif.go.jp/topics/301107_joint_research_report_jp.pdf