HOME4.市場・運用 |世界の95大手機関投資家が、欧州主要電力11社に対し、2030年までの石炭使用削減の明示を共同要請。日本のGPIFが東電に脱炭素を求めるようなもの。GPIFは共同要請に不参加だが(RIEF) |

世界の95大手機関投資家が、欧州主要電力11社に対し、2030年までの石炭使用削減の明示を共同要請。日本のGPIFが東電に脱炭素を求めるようなもの。GPIFは共同要請に不参加だが(RIEF)

2018-12-21 23:07:55

IIGCCキャプチャ

 

  米カリフォルニア州職員退職年金基金(CalPERS)など95の機関投資家(総保有資産額11兆5000億㌦)が、欧州でもっともCO2排出量の多い仏EDFや独RWE、英E.ON など11の主要電力会社に対し、彼らが抱える気候変動による壊滅的リスクを指摘、2030年までに石炭使用の明確な削減計画を示すことなどを求めた共同書簡を送った。

 

 「電力会社は脱炭素化を加速し、野心的な気候政策を支援すべき」と題した書簡に名を連ねたのは、「気候変動を重視する機関投資家グループ(IIGC)」に参加する年金・資産運用機関のほぼ半数の機関。EUだけでなく、米、スイスなどの年金等も多数参加しているが、日本からの参加機関はいない。

 

 国連の気候変動政府間パネル(IPCC)は先の特別レポートで、今後の気温上昇を産業革命前から1.5℃未満に抑えることができるか、あるいは2.0℃になるかで、2050年までに8兆㌦~11兆㌦の気候変動によるグローバルな損失の違いが生じると指摘した。書簡はその点を踏まえ、投資家としてのフィデシャリー・デユーティー(受託者責任)として、電力会社の脱炭素化を求める、としている。

 

電力会社にとって「潜在的な負の資産」とされる石炭火力
電力会社にとって「潜在的な負の資産」とされる石炭火力

 

 電力セクターからの温室効果ガス排出量はグローバルな排出量の4分の1を占める。書簡は、同セクターの排出量削減は、経済全体の熱源のCO2量を減らし、輸送部門、産業部門の脱炭素化にもつながるため、その成否は脱炭素経済への移行を左右すると強調。電力セクターの脱炭素化を重視する理由としている。

 

 電力部門が発電源を再生可能エネルギーへシフトすることを早急に進めることで、2030年までに26兆㌦の経済的利益を生み出すほか、6500万人の雇用を創出、70万人の大気汚染による早死を防ぐことができると指摘している。

 

 こうした指摘のうえで、書簡は、各国の主要電力会社(発電会社、電力網運営会社、送配電会社)に対して、ネットゼロカーボン経済に向けた各社の計画を明示するよう求めた。特に、各社がパリ協定の目標と適合する資本支出計画を含む移行期の計画を示すよう求めた。

 

仏EDFの本社
仏EDFの本社

 

 そうした計画には、2030年までに、EU域内およびOECD圏内での石炭火力発電事業の急速な削減に向けた明確なコミットメントと、そのためのスケジュールの明示を求めている。また投資家として温暖化問題で電力会社と継続的な対話を求めていくとしたうえで、「必要ならば、対策の遅れる電力会社に対しては、投資家として活用できる手段を講じる」と述べ、株主としての影響力の行使を宣言している。

 

 同時に、各国の政策当局に向けても、低炭素インフラに向けた投資を促進・支援するための明確で建設的な政策シグナルを早急に発信するよう求めている。その政策には世界規模でのカーボン価格化政策の導入も必要だ、としている。

 

 共同書簡は署名機関の一つである英Hermes Investment Managementがまとめ、所属するIIGCCを通じて、各電力会社に送付された。

 

独REWの本社
独RWEの本社

 

書簡の送付先の企業は以下の通り。

  • Centrica (UK);
  • CEZ (Czech Republic);
  • E.ON (UK);
  • EDF (France);
  • Enel (Italy);
  • Engie (France);
  • Fortum Oyj (Finland);
  • Naturgy (Spain);
  • Iberdrola (Spain);
  • National Grid (UK);
  • RWE (Germany); and
  • SSE (UK).

 

 英気候シンクタンクのカーボン・トラックによると、2030年までにほぼすべての欧州の石炭火力発電所は操業するだけで損失が表面化すると試算している。こうした石炭火力を抱える電力各社は、将来のクリーンエネルギー社会に対応できるかどうかを自ら市場に証明する必要があるとしている。

 

  Hermes Investment Managementのエンゲージメント子会社のHermes EOSのスチュワードシップ担当のBruce Duguid氏は「エネルギー効率化部門での再エネ技術と改善によるコスト低下は、電力会社の伝統的なビジネスモデルの将来予測を打ち砕き、膨大な圧力を電力会社に及ぼしていく」と警告している。

http://www.iigcc.org/files/publication-files/Investor_expectations_of_the_power_sector_-_20.12.18.pdf