HOME |中国電力・JFEスチール、千葉市で計画していた大規模石炭火力発電所建設を断念。天然ガスへの燃料転換を模索。超々臨界圧火力(USC)も「事業性を見込めない」。国の石炭火力推進路線も岐路に(RIEF) |

中国電力・JFEスチール、千葉市で計画していた大規模石炭火力発電所建設を断念。天然ガスへの燃料転換を模索。超々臨界圧火力(USC)も「事業性を見込めない」。国の石炭火力推進路線も岐路に(RIEF)

2018-12-27 21:41:35

JFE1キャプチャ

 

  中国電力とJFEスチールは27日、千葉市で計画中の大型石炭火力発電所建設を撤回すると発表した。2024年の稼働を目指してきたが、撤回の理由は「十分な事業性が見込めない」としている。今後は燃料を転換、天然ガス火力への転換を検討する。計画ではCO2排出量が相対的に少ない超々臨界圧石炭火力(USC)事業としていたが、USCの事業性が見込めないことは、他の新規石炭火力計画にも影響を及ぼしそうだ。

 

 (写真は、JFEスチールの千葉市・川崎町の東日本製鉄所地区)

 

 2社は中国電力が73%、JFEスチールが27%を出資する合弁会社「千葉パワー」を設立、JFEスチール東日本製鉄所千葉地区(千葉市)内に、出力約107万kWの石炭火力発電所「蘇我火力発電所(仮称)」の建設計画を進めてきた。

 

 しかし、同計画に対して、地区の住民らが①気候変動問題で世界で進む「脱石炭」の潮流に逆行している②大規模な石炭火力で大気汚染問題も深刻化し、PM2.5や水銀が拡散する③周辺にサッカースタジアムや、学校、病院なども多く、市民の健康に影響する懸念――等を指摘。2017年4月には、地元で「蘇我石炭火力発電所計画を考える会」が発足、反対運動を展開してきた。

 

 国際的な温暖化対策を求めるパリ協定では、世界の気温上昇を産業革命前から2℃上昇にとどめる目標を設定しているが、「2℃目標」では不十分で、「1.5℃」抑制の必要性が高まっている。こうした中で、環境省も同計画に対する環境アセスメントの手続きにおいて、2017年に「再検討」を要請した。

 

 2社は計画撤回の理由について、「総工事費用が想定よりもかさみ、十分な事業性が見込めないため」と説明している。具体的な総工事費の増額の要因等については説明を避けている。発電所が立ち上がると、少なくとも40年は操業する。そうなると、途中で排出規制が強化されるリスクが生じる。

 

 日本政府も2050年にはCO2排出量の80%削減の必要性を指摘している。このため、2024年に操業したとすると、途中で化石燃料規制が厳しくなり、現在は天然ガスより安い石炭価格が、温暖化対策として「禁止的」に引き上げられる可能性も排除できない。

 

 また石炭火力を継続する場合、発生するCO2を吸収するCCS(CO2回収・貯留技術)を導入することも考えられる。そのためのコストを計画時に見込めるかどうかも検討対象になった可能性もある。これら将来のコスト上昇への備えは、現時点では不確実性が高く、結果的に事業計画の想定リスクが上振れしやすくなったとも考えられる。

 

 さらに、都市部での新規石炭火力建設問題には住民の反発が広がっている。すでに仙台と神戸では、新規石炭火力計画の差し止めを求める住民訴訟が起きている。千葉市の案件も、首都圏の人口密集地での大規模石炭火力の新設ということで、訴訟対象になるリスクは大きい。訴訟になると工事建設に影響が出るだけでなく、両社の評判リスクも高まる。

 

 両社が、当初の石炭火力計画を断念し、天然ガス火力への転換を検討する、としたことに対して、地元の「考える会」は、「石炭火力を考える東京湾の会」「気候ネットワーク」と共同で同日、「計画断念を歓迎する」とする声明を出した。「今後の検討に際しては、地元住民の声を真摯に受け止め、周辺環境の改善への取り組みや、再生可能エネルギーの導入を検討することを求めたい」と要請している。

 

 断念した石炭火力事業が、政府や産業界が推進してきたUSCタイプである点も、微妙な影響を内外に与えそうだ。USCは伝統的な石炭火力発電よりCO2排出量が少ないとされ、政府は国内だけでなく、アジア諸国などでも推進し続けている。しかしUSCのCO2排出量は天然ガス発電より2~3割多いとされ、欧米の機関投資家等は投資引き揚げ対象に加えるところが少なくない。

 

 日本の金融界でも、3メガバンクはUSC向け投融資を「例外」として認める姿勢を打ち出している。だが、日本生命や三井住友信託銀行、りそなホールディングスなどは欧米水準の投融資方針に切り替え、従来型の3メガと一線を画している。

 

 事業計画を立ててきた中国電力は、本拠とする中国地方では電力小売り自由化に伴う競争の激化と、電力需要の伸び悩みに直面しており、首都圏市場での事業展開を目指してきた。一方、JFEは鉄鋼事業の縮小への対応と保有工場用地の有効活用を目指した形だった。

 

 ともに、短期的な対応として「手軽に」石炭火力に手を出したとの見方もできる。ともに、「温暖化の加速」というグローバル要因を軽視した結果の方針転換といえる。代替案として検討するという天然ガスへの切り替え案も、将来のリスクを見越して、十分に練り直したものなのか。両社の経営判断の当否が引き続き問われそうだ。

http://www.energia.co.jp/press/2018/11571.html

https://nocoal-tokyobay.net/2018/12/27/soga_cancel/